シリコンバレー(ベイエリア)駐在員の実態

前回の暗ーい話題の記事が驚くほどに共有されたのには結構驚いた。読んでくださった方々には御礼申し上げます。

 

kikidiary.hatenablog.com

 

私はしがない駐在員なので、ピカピカの"シリコンバレーネタ"は全然無いのだけど、まとめ的な話はこれまでにもあまりしてこなかったようにも思うので、駐在生活もおそらく折り返し終盤に入ったこともあり、これからあれこれと振り返りながら色々整理していければと思う。

 

私はサンノゼに駐在して四年経過した駐在員なのだが、駐在員にもさまざまなミッションを帯びて来ている人たちがいる。そうした実態をすこしでも今回は紹介したい。

 

 

①社費留学でスタンフォードなどに来ているひとたち

 意外とかなり多いのだが、大きな会社が半年から2年くらいの間、スタンフォードに社費で派遣しているケース。会社のお金で派遣されて駐在員として家族帯同可で尚且つ基本は勉強しに来ている。学びに来てるという赴任目的のため、会社によって家族帯同を認めないケースもある。

 中には何らかのミッションを同時にこなしている人もいる。大きな商社やメーカーでこういう形の派遣をする仕組みを持っている企業限定。20代後半から30代中盤に多い。デザイン思考だとか、MBAだとか、色んなことを学んで帰って日本側に良い刺激をもたらしてほしいという日本側の経営層の鶴の一声で実施されてると思われる。

 

②同じく派遣されてWilとかDNXでなんらかのプログラムに参加しているひとたちやCVC立ち上げで来てる事業開発の人たち

 これも銀行とかANAとかソニーとかIHIとか名だたる大企業が多いのだけど長い人だと数年の間、インキュベータープログラム的なものに参加していたり、投資を実際にしたり、何らかのプログラムやサービスを立ち上げたり、調査をしたり、といったことに従事しているひとたち。

 これまた、そういった仕組みを持つ企業が実施している。また、シリコンバレーの新橋、ことPlug&Playなどに席だけ持っててたまにそこに座ってる商社マンもいる。30代前半から中盤の幹部候補生で来てたりする人が多い印象。その他に自社でCVCを立ち上げたりするケースもあり、その場合はシリコンバレーのスタートアップとたくさんコネクションを築いたりしなくてはならなくなったりもする。駐在員待遇。ミートアップとかに参加してる人もこの辺りの人が多い気がする。突然、インタビュー記事やニュースに出たりもする。ある意味、シリコンバレー駐在員の中でも目立つ要素の多い会社の顔/スター的なポジションだとも思う。

 

 

③ガチの駐在員。

食品メーカー、飲料メーカー、電子部品メーカー、電子機器メーカー、半導体装置メーカー、半導体装置の部品メーカー、半導体材料メーカー、電子材料メーカー、商社マン、など。

サンノゼ、サンフランシスコ、アメリカの西側、アメリカ全体とエリアのカバー範囲はマチマチだが、アメリカで自社のシェア拡大、商圏拡大を目指してやってくる人たち。アメリカに本社や意思決定する部署を持つ会社を攻略するためにやってくる。エンジニアやセールス、マーケティングなどが多い。記者もたまにいる。ワーカーの賃金も高いため、あまりこのエリアに工場を構えている日本企業は多くない。工場勤務や立ち上げはたぶん、テキサスやデトロイト近郊、メキシコあたりが多いのかなあと思う。

大きな企業だと研究開発職を赴任させたりもする。たまに買収した企業の経理だとか、総務でお目付役で赴任してる人もいる。領事館とかJETROなども、人を派遣してる。

企業によって駐在先のオフィス規模はマチマチであり、買収した企業をそのまま合流させて巨大なオフィスを有する会社もあれば、ローカルにオフィスを構えてどんどん規模を拡大してきた会社もある。駐在員もVISAは個々人で異なり、LビザやEビザで来てる人たちが多い。最短では1年、知る限り駐在待遇で最長10数年いらっしゃる人もいる。おおよその企業は2-4年で交代させるケースが多い。任期が長くなる理由は人により異なる。代わりがいないとか、本社に忘れられてる(爆)とか様々。本人の希望で帰らないといっても普通は帰されるものですが。

アジアとは違い、日本との時差もかなりあるので、消耗が激しいという話はよく聞く。なので、3年で帰す会社もある。忙しすぎてあまりほかのコミュニティとの交流ができてない人たちも多そう。

仕事も普段の仕事にプラスして日本からの出張者が来ると途端にてんてこ舞いになるし、シリコンバレー自体の注目度合いから経営層が来ることも多く対応で昼夜の食事に付き合い、てんやわんやになるケースは多い。すごい話だと偉い人が来たら晩御飯の間、ひたすらに車で待機していた、という恐ろしいエピソードも聞いたことがある。私はさすがにその会社では働けないだろうなあと思う。

ベイエリアにはそれほど楽しい夜のエンターテインメントが無いため、対応には苦慮する。休みならワイナリーやナパバレーへ行けば楽しいが1日潰れるし、会社の上層部を連れて行けば気を使うばかりで自分はあまり楽しめないだろう。

日々の動きが激しいシリコンバレーには若い人を行かせて経験を積ませようという機運は高まりつつあるのかなとも思う。各社比較的、若い人を派遣する傾向が強まっているように感じる。また、経験を積ませるという目的でトレーニー制度を設け、3ヶ月、半年などの短期で派遣する会社もちらほらある。

年齢が高めの人の場合は意思決定層として来ていたり、ローカルのヘッドの補佐として実質トップ兼日本とのやりとりをうまくこなすために来てる人も結構いる。

 

・私の場合

私の場合は上記のうち③にあたる。

日々の業務は下記。

 

シリコンバレーデトロイト、医療機器産業の巨大な顧客を相手に日々、担当する製品を売り込む。技術対応も含む。テレカン、SMSでのやりとり、face to face、電話などなんでもござれ

・重要プロジェクトのプロジェクトマネジメント

・グローバルチームリーディング

・情報収集、情報交換、情報分析、考察、アジア(中韓シンガポールなど)や日本側への展開とやりとり

・全米エリアの顧客からの問い合わせ対応

・展示会に出展して材料を紹介してコネクションを広げる

・展示会に視察に行きマーケティング活動、レポート作成

・社内とのやりとり、方向性決定のための協議、テレカン

 

元から上記のミッションを言い渡されていたわけではないが、先輩や上司からの依頼に対応していった結果上記の業務範囲が形成されていったように思う。

 

業務の幅が広く、担当するエリアもシリコンバレー中心だが全米およびカナダ、メキシコなど南米も一応カバー範囲になる。出張も必要なら行くことになるが、アメリカ以外はまだ無い。シアトル、ポートランドロスアンゼルス、サンディエゴ、ボストン、フロリダ、ダラス、デトロイト、シカゴ、アトランタあたりへの出張が多い。デトロイトなどの東海岸への出張になると時間が最大で3時間進むため、1日が移動で潰れることが多い。

 

シリコンバレーにいる駐在員の中での忙しさレベルを3段階にしたらわたしの忙しさはちょうど真ん中くらいだろうか。本当に忙しい人たちをよく知ってるので、自分はそこまでブラックな働き方ではないとは思っている。それでも、夜12:30くらいまではメールやSMSで対応している事も多いし、日本から送られてくる資料を夜中まで待ってるケースもあるからこれも人によってはブラックに感じるかもしれない。ひどい会社だと、夜中の3時や明け方まで社内、ないしは客先とテレカンをやってる会社もチラホラある。あれは流石に真似したくない…。

 

 

・駐在員の奥様方

いわゆる駐在員妻、駐妻と呼ばれる方々。ごく稀にEビザで来てる人は奥さんもEビザで働くことが可能な場合も。おおよその方々は主婦生活を送ることになる。稀に奥さんが赴任者で旦那さんが駐妻ならぬ駐夫というケースも無くはない模様。ただ、やはり日本企業ではまだそこまで事例は多くないと思われる。語学力が乏しい人の中には遠慮しようとする人もいるがそれは非常にもったいないと思う。ベイエリアは仕事せずに数年住むのはとても快適なエリアだ。中国のように空気の汚染や反日などの憂鬱になる問題もない。もちろん駐在帯同によりキャリアが断絶することを嫌う人もいるので、それがなるべく断絶しないで済むのであればそうした会社の制度を活かす人もいる。(数年間休職可な会社もあると聞く。羨ましい!) 中学生、高校生あたりの子供がいる人になると子供の受験を考え、帯同しないケースもある。

 

 

子どもの教育で言えば、プリスクールなどではモンテッソーリ教育を導入しているところがかなり多い。親が家庭で子供とどう接するかにもよるが、これもまたためになるのではないだろうか。小学校でもiPadを導入しているところも多く課題提出もweb経由だったりするというから先進的だ。日本はいまだに藁半紙を配るわけだからこの差は大きい。子どもを現地校に入れると日本語補習校に行かせたりしなくてはならないため、親の負担も大きいが、それでも子供にとっての海外生活数年間は非常に良い経験になるだろう。 

あと、アメリカで出産するとアメリカ国籍と日本国籍の両方を取得でき、二重国籍状態になる。アメリカは出生地主義のためだが、これは今後トランプ政権の影響でどうなるか不透明な部分だ。

 

あと、これは自分なりに課してることだが、家族の精神的健康に勝るものはないと思っている。どんなに仕事が大変でも家族の心のケアは忘れてはいけない。遠く離れた地について来てくれて、家庭を支える家族の心のバランスを保てないと結局巡り巡って自分のミッションもうまくこなせない、ということにもなりかねない。

 

 

・駐在員の待遇

駐在員はおおよそのみなさん、家賃全額ないしは大半は補助だと思う。その他のベネフィットは会社によってマチマチ。車が一台は支給されるというか貸与されるケースもあれば自前で車を買わなくてはならない会社もある。大抵は補助が出ると聞く。日本企業の駐在員に手厚いベネフィットがあったのも今は昔。近年では赴任者への手厚かった補助は削られる方向にある。

ドル資産の形成という意味では多少の意義もあるかもしれない。

為替調整や物価調整も入るが、物価はめちゃ高いので、生活はそこまで楽ではないかもしれない。レストランはびっくりするくらい高いので、外食してるとお金はたまらないだろう。

給与額は日本での給与待遇を元に決まる面もあるため、日本でそれなりにもらってる人ならシリコンバレーで生活に苦労することもないのかもしれない。あと、旧財閥系はまだ割と待遇がガチで良さそうな話をよく聞く。

 

 

・住む場所

基本はオフィスの近くに住むことになる。子ども帯同でかつ小学生以上の場合はサウスベイエリアだとサニーベールかクパチーノに住むことになることが多いと思う。サンフランシスコやサンマテオ近辺にオフィスがある場合はサンマテオはなんでも揃っているので、非常に便利だろう。

子どもがいないもしくは子どもが小さい場合は北サンノゼあたりにあるいくつかのアパートメントに住む人が多い。日本企業の駐在員が多く住んでおり知り合いもできやすい。仕事関係なく遊べる友人がいるかどうかは駐在生活を送る上では結構重要なファクターだと思う。

場所によって異なるが賃貸でアパートメントに住むことになる人が多いと思う。アパートメントの家賃は非常に高く、2ベッドルームから3ベッドルームで2,800-3,500ドルくらいが相場だ。家賃が高いだけあって、BBQスペースやパーティルーム、ジムやプールを完備しているアパートメントも多い。私も最初相場を知った時は目を疑った。

 

治安はそこまで悪くないが稀に強盗事件やホールドアップ、空き巣、車上狙い、殺人事件が起こったりはする。先日遂にうちから数百mのところで拳銃を使った殺人事件が起こった。ちょっとドキッとする。治安は本当に住む場所にもよる。駐在員に人気のアパートの周辺はこういう話はあまり聞かないのだが。最近気が付いたが、smog checkとか車の修理工場が多いエリアは人気も少なく、治安がそこまで良くないケースが多い。たとえば、サンフランシスコで有名な観光地なんかだと車上狙いであっという間に荷物を盗まれたりもする。車の中に荷物を残しておくのは本当にオススメしない。うちも以前一度だけ車上狙いの被害に遭ったことがある。

 

 

・任期

①や②のケースだとやることがはっきりと決まって来ている人も結構多いわけだが、③の場合はそれが定まらず来ている人たちや定まっていたのに諸々の事情でやることが変わってしまった人というケースも多いかもしれない。中には事業撤退で帰任するケースもあり、帰る部署が無く困ってる人もいたりする。

帰る理由はもともと任期が決まってるケースと任期はざっくりとしか決まってなくて、後から段々と決まるケースとあってこれも企業によって千差万別だ。帰ると思ってたのにポストの都合や後任がいない、などの理由で帰任が延ばし延ばしになるケースも1つや2つではない。

 

 

・ミスマッチ

中には仕事がうまく進められるずに日本に短期で戻されるケースもある。赴任先の人材ニーズと派遣元の派遣方針との間にミスマッチがあるとたまにこうしたことが起こるようだ。ミスマッチで最も大きな問題は語学だろう。日本企業の中には未だに、「アメリカで住んでるだけで英語は話せるようになるだろう」と本気で呑気に思ってる会社や経営幹部層も多い。いや、実に多い。

 

行けばなんとかなるだろう、というのはなんとか出来る力がある人を送る場合においてはyesだが、被派遣者の見極めは派遣元でしっかりやらなければ被派遣者も派遣先も派遣元もみんなが不幸な結末になる。

ただ、抜擢してもらった人は「わたしには力が無いので出来ません」とはなかなか言えない。しかも、一度出張で来てみるとなんだか、ベイエリアは天気も良いしカラっとした空気で、住めるアパートメントも日本に比べると比較的豪華だし、ワインは美味しいし、奥さん共々、これは楽しい駐在生活になるだろうと期待に胸を膨らませるケースもあると思う。ミッションによってはこれはyesだし、ミッション内容がヘビーな場合はnoのことも多いと思う。仕事が重すぎて家庭生活が破綻するケースもあるだろうし、仕事があまりにこなせなくて中途半端な時期に帰任させられるケースも実際にあると聞く。奥さんが仕事を辞めて駐在員妻になる気満々だったのに…いきなり旦那さんが帰任したとかそんな話もある。そうなると目も当てられない。

 

シリコンバレーの週末

天気の良さはベイエリアの最大の特徴の1つだろう。これがあるから、シリコンバレーに住んでるという人たちはローカルの人にはたぶんめちゃくちゃ多いと思う。投資家やスタートアップの人たちも…。何か辛いことがあっても天気が良いからなんとか前向きになれる。盆地になってるので、本当にあまり雨が降らない。(最近はよく雨降るが…)。

 

トレッキングやハイキングにも向いてるし、アウトドア好きにはたまらないエリアだろう。車で3時間でナパバレーやソノマバレーにも行ける。車で3-4時間でヨセミテ国立公園にも行ける。5時間半でロスアンゼルスにも行けるし、ディズニーランドにも行ける。車で1-2時間のところにはハーフムーンベイやサンタクルーズなどの魅力的なサーフィンできるところもある。サンノゼサンタクララからでもサンフランシスコにも簡単に遊びに行ける。カリストーガやパソロブレスは車で3時間かかるが、温泉があったりもする。

だんだん出かけるのが面倒になってくると友人たちとBBQに興じたりする週末もあるだろう。天気が良いしゴルフ場へのアクセスもよく、日本ほどはプレイフィーが高くないのでゴルフをやる人も多いが、わたしは自転車乗りなので、参加したことはない。なかなか趣味か合う人を探すのに苦労してる。ベイエリアは自転車で遊ぶのには最適な場所だ。

 

 

シリコンバレー駐在員のメリットは?

ここ10年くらいの傾向だと思うが、海外赴任のメリットはどちらかというと海外赴任手当やベネフィットを得ることよりも「日本では出来ない経験を積むこと」になりつつあると思う。

 

シリコンバレーには世界に大きな影響を与える世界的な企業、サービスプロバイダー、装置メーカー、半導体メーカーなどが半径数十マイルの中にひしめいている。ほんの1日の間に世界的な半導体装置メーカーと世界一のハードディスクメーカーと世界一のスマホメーカーと世を賑わすスタートアップをぐるりと回って打合せを組むこともやろうと思えば出来てしまう。(実際にそこまでやる人はいないと思うけど) 著名な投資家やベンチャーキャピタリストも多く、中にはここに裸一貫でやってきて、資金調達しに来る猛者もいる。日本人では殆ど聞かないけど。

 

こうしたトップ企業を日々サポートするだけでも本当に様々な学びがあると思う。米国企業はロジカルと思いきやポリティカルも勿論あるし、企業によって様々なダイナミックな動きが出てくるのを見ているのは非常に勉強になるだろう。突然の合従連衡で巨大なメーカー同士がくっついたりもする。アルテラとかいい例だろう。

 

こうした企業をサポートするために派遣されてくる日本企業の駐在員たちも基本はコミュケーション力のある実力のある方々が実に多い。こうした人たちと知り合い、楽しく酒を酌み交わし、ネットワークを築くだけでもその人の財産になることは間違いない。また、企業のトップクラスの人と気軽にゴルフに行けてしまったりもする環境でもある。(ゴルフでなくてもいいんだけど)

 

駐在員の席は限られているし、家族や家の都合でなかなか簡単に手を挙げられる人も多くはないだろう。周りの人たちのレベルにもよるので駐在するかどうかは運の要素も大きい。ただ、もし、万が一、運良く、シリコンバレーに駐在することになったら、それはある意味では自分のキャリアの中で飛躍のチャンスにはなると思う。勿論、帰任して必ず出世するわけではなく、会社はそれを保証するわけではないし、赴任中の仕事の内容、結果や業務遂行におけるプロセス次第ということもあるが、本気で頑張れば自分の人生に大きな影響を与えられる貴重な時間でもあると思う。