過去、2017年にNewsPicksが主催した講演会の自分用メモを発掘したので忘れないうちに、貼っておきます。2017年6月の講演であることを差っ引いても面白い内容でした。
■石松氏プロフィール
東京大学、MIT出身。現在、NASAに勤務する傍ら、東京大学非常勤講師。
宇宙を志すきっかけは映画「アルマゲドン」。作品中で出てくる研究者がMITの出身だったのがきっかけ。
MITで書いた宇宙に燃料補給拠点や燃料精製拠点が必要ではないか、と説いた論文がコストダウンの面で評価されNASA本部の注目を受ける。
2020年のNASAにおける火星での無人探査機の航行プランのシミュレーションを担当。
■NASAについて
NASAは全米の様々な場所に拠点があり、有名なところではフロリダのケネディ宇宙センターやテキサスのヒューストンにある宇宙センター。カリフォルニアにはマウンテンビューとLAに拠点があり、ロスアンゼルスのパサデナにはJPL(Jet 推進研究所)と呼ばれる研究センターがある。
JPLは映画「The Martian(邦題:オデッセイ)」にも登場するが、ロケ地は別の場所である。NASAには4万人以上の従業員がいる。
国防予算を使っているNASAで働くためには基本的にはグリーンカードが必要。グリーンカードが無くても働ける仕事も中にはあるが、アクセスできる情報が限られるため、ミッションにおいて非常に不便。出身地は多彩であり、インド人も多い。勤務時間さえ自己管理してうまく満たせば、2週間に1回金曜日を休みに出来たりもする。
今日のアジェンダ
・Rocket Race
・Moon Race
・Mars Race
・NASAの存在意義
■Rocket Race
ロケット再使用 vs. 使い捨てロケットの開発競争が盛ん。
・ロケット再使用を提唱しているのはスペースXやBlue Originなど。
・使い捨てを主張しているのはインターステラなど。
どちらが打ち上げコストを抑えられるのか、についてはまだまだ議論の最中。打ち上げるサイズによっても、もしかするとコストが異なる可能性はある。超小型衛星などであれば、トータルのコストでは使い捨てが有利な可能性はある。
衛星インターネット事業ではSpace XとOne WebとBoeingの戦いであり、それぞれが目指しているところが異なる。Space Xは12,000機の衛星を打ち上げることを計画していたり、Blue Originは600機程度を打ち上げることを計画している。
One WebにはSoftbankが出資していたり、Space XにはGoogleが協力していたりと、将来のインターネット、途上国のインターネットなどの覇権を握り、デジタルディバイドを解消するための空の戦いが続いている。
こうした衛星打ち上げ時代にはもちろんスペースデブリ(宇宙の衛星軌道上に漂うごみ/使命を終えた人工衛星の残骸など)の問題もある。実際に、スペースデブリが宇宙ステーションにぶつかりそうになると宇宙船に念のため退避したりすることはある。こうしたスペースデブリを除去する企業として日本ではアストロスケールという会社もある。
トランプ政権の影響で、月面探査や火星探査などに予算が振り向けられ、民間が出来ることは民間に委託しようという流れは出てくるかもしれない。
全体として予算が減るという話は無く、どういう分野に振り向けるか、という話。NASA勤務者の雇用問題にも関わってくるため、一筋縄ではいかない問題。
■Space X
テスラの創業者でもあるイーロン・マスクが立ち上げた打ち上げ+ロケット開発製造メーカー。
通常、100万円/kg程度かかる打ち上げコストをロケットの再使用を突き進めることで半分とか1/3にしようと画策。最近になって、再使用ロケットの発射・垂直着率も成功させたが、実際に1年おき程度の間隔が空いていたが、この打ち上げ間隔を24時間まで縮めたいということも公言している。再使用に際してはもちろん、事前の入念な点検が必要。ファルコン9は大人気で打ち上げスケジュールがかなり逼迫している。
■Blue Origin
Amazonの創業者CEOでもあるジェフ・ベゾスが立ち上げた会社で、目指しているのはSpace Xと似ている。ニューグレン、ニューアームストロングなどのロケットがある。
■その他
・ULA
ロッキードマーティンとボーイングの合弁企業。アトラスVやデルタ4など。
・Orbital ATK
アンタレス、ミノタウロスなど。数年前まではNASAから受注もあったが、近年失速。荷物打ち上げなど。
・Virgin Galactic
Virginの創業者リチャード・ブランソンが立ち上げた会社。空中発射、などを企図しており、小型衛星の打ち上げ。
・Rocket Lab
小型衛星打ち上げ。
・Vector Space Systems
超小型衛星の打ち上げ。Space X出身者が立上げ、テストフライト中で非常に進展が早い。
ホリエモンも出資している北海道の会社。小型衛星。
・PDエアロスペース:
名古屋の会社。Virginとコンセプトは似ており、水平離陸してそのまま宇宙へ向かうようなことも考えている。
■Moon Race
既に米ソ冷戦時代の開発競争は終わって久しいが、再び、月面へ向おうという開発競争の機運は高まっている。Google Lunar Xprizeという民間による月面無人探査コンテストが開かれており、2017年末までに打ち上げ及び月面探査を成功させることができれば1位2000万ドル、2位500万ドル、といった賞金が出るようなコンテストとなっている。 そのほかにも月面走行何km達成すればいくら、写真を撮影できればいくら、など個別のミッションが多数設定されている。月面の夜は-170℃の時間が14日間も続くため、夜を乗り切れるかどうか、などもミッションとなっている。
各国、開発チームを立ち上げており、イスラエル、アメリカ、多国籍チーム、インド、日本が残っている。たとえば、イスラエルはファルコン9を使う計画だが、ファルコン9の打ち上げスケジュールがひっ迫している影響でもしかすると2017年中に打ち上げが出来ない可能性がある。また、日本はインドと相乗りする計画だが、こちらも打ち上げスケジュールは12月末に設定されており、予定が順延した場合、成功出来ない可能性がある。
月面には数多くの資源があるとされ、6億トンの氷やヘリウム3、レアメタルなど今後の宇宙開発における資源に期待されている。月面探査競争は資源開発競争とも言える。
■Mars Race
日本の場合、フォボスとダイモスという火星の月に行く計画を立てている。
NASAは2030年代後半に有人着陸を目指しているが、近年Space Xは2024年頃を目標として計画を進めている。各国が火星有人探査を目指しており、UAE、ナイジェリア、中国、インドなども今後、火星探査に乗り出してくるものと思われる。どうやって火星に永続性を持って航行できるようになるかが、大事だと考えており、火星に旗を立てるだけではなく、パーマネントな基地を設置できるかが重要になってくるだろう。
■NASAの火星ミッションについて
火星も地球も太陽を中心に公転しているが、それぞれに公転周期が異なるため、最適な出発時期と到着時期を計算し、日程を決定しなくてはならない。太陽を挟んだ反対側に火星があるときに到着するのが最も燃料消費が少ない。これはホーマン遷移軌道と呼ばれるものであり、1925年にドイツのヴァルター・ホーマンが提唱した。太陽の重力に逆らうと燃料消費が激しいため、基本的には太陽の重力には逆らわない前提で考える必要がある。火星へ到達するために最適な発着のタイミングは2年に1回程度しか訪れない。
2020年の火星無人探査はCuriosityという計画。火星に送られる無人探査機は900kgくらいのローバーと呼ばれる4輪車。ローバーが着陸する際には母船が逆噴射して着地する。着地地点の絞り込みに際してはミッションの内容も鑑みて、何万通りものルートから選ぶ。
火星には様々な地形があり、カメラで視認しながら、地球と交信しながら進路を決定する。自動運転+指示走行。通信にも時間がかかる上に、せいぜいカメラの視界の範囲でしか進路決定できないため、1日に数十mしか進むことが出来ない。
2020年のミッションでは試験管を設置して来ることもミッションとなっており、2026年のミッションでは試験管を回収するためのミッションが予定されている。2022年には火星の衛星軌道上に回収用の宇宙船を用意する。2022年には着陸ミッションが無いのは計算上、火星に嵐が来ている時期ということが既にわかっているから。到着時期によって日照時間も異なり、太陽電池で充電する必要があるので熱設計なども用意周到に行う必要がある。2026年にスタートする回収プログラムで地球に試験管が持ち帰られる予定は2031年(!)。
余談だが、「The Martian」は非常にリアルな友人火星探査を描いた映画。冒頭の嵐でロケットが倒れる場面は火星の重力が軽いので、そのようにはならないのではとのこと。
■NASAの存在意義
NASAの存在意義は宇宙や科学的探査にあると考えている。科学探査とビジネスは全くの別物であり、宇宙と一口に言ってもこれらは分けて論じられるべきもの。実際に、民間でできるところは民間が担当すればよいし、民間が利益を見いだせない分野にこそ、NASAのような機関はリスクを取って、資金と人材とお金を投じるべき。