【書評】営業の問題地図

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というわけで、日本一時帰国時に少し気になって中目黒の本屋さんで手に取った本をようやく読了できました。

 

この手の本はしばらくの間、読んでいませんでしたが、ここ最近の自己啓発本のトレンドや話の流れを理解できればという思いもあり、読んでみました。しばらくの間、こうした啓発本から離れていたこともあって、非常に面白く楽しく読ませてもらいました。

 

 何せ、法人営業として日々、顧客と折衝している身からすれば、サンノゼシリコンバレーで世界最高峰の環境で十分に自分は勉強できているという思いも強かったわけです。考えてみると、1対1での戦いにはすこぶる強くなった一方で、組織で戦う、チームで戦うという観点で見たときには自分はそこまで成長していないのではないか、という思いに今年は前半から駆られてきました。そういう意味で、今回、この本を読んでからの読後感をまとめておかなければと思い、筆を執った次第です。

 最初から結構面白いのですが、どの営業改革も必要だなと感じました。

あと、営業個々人の能力開発を「組織として担保できていない」、ということにはたと気が付いてしまいました。 伸びる人は勝手に伸びるし、伸びない人は伸びない。仕組み化してしっかりと営業マン個々人の能力開発、能力評価をしていかなければ会社としての成長はないなあ、と思います。

 

(以下読書後の大まかなまとめ)

 

■営業能力を案件難易度ごとに判断

・自力案件と会社案件は難易度ごとに区別せよ

・新規取引と既存取引を区別せよ

・案件の難易度を競争のレベル・量に応じて定量化せよ

・妥協が生まれるるので前年対比目標達成率は評価しない

 

特に既存案件でも売上が大量に上がる既存顧客の案件は「打ち出の小槌」案件として評価を見直す、というのはなかなか面白い。営業として新規案件のほうが難易度が高いということをみとめて、新規案件を既存案件よりもより高く評価することによって新規案件への取り組みの意欲をも掻き立て、ありがちな不公平感をなくす。特に既存顧客・既存案件の存在感が非常に大きい会社では非常に意味のある施策だろう。ここにエリア係数なども考えるというのもまた面白い。海外売上が多い場合などの不公平感も打ち消していく。

 

「打ち出の小槌案件」は受注の学習に利用しよう、というのもまた面白い。確かに長く大口顧客を担当している営業担当者からすると、「この顧客は自分でなくてはだめなんだ!ほかの人でうまくやれるわけがない。自分が外れたら売上がガタ落ちになる」という気持ちが強くなりがちですが、それは実際には幻想である、というのは自分も経験があるのでわかります。(ただ、海外案件の場合は実はそれが幻想でもなかったりするのではないかとも思いますが、これまた恐らく良い後任の担当を育てることさえできれば、幻想であるともいえるのかも。)

 

■人間関係は窓口担当以外にも作っておくこと

 「窓口心中」するなよ、という話が書いてありますが、これは自分も経験したので、腑に落ちました。大きな顧客ではなくてもどこの客となる組織もたいがいは窓口担当のほかに上司がいるはずで、そうした上司との人間関係構築を怠らないように、ということだと理解しました。この人間関係というのは結構重要で、担当同士でうまくいかないことも上司を通してうまくいくようにきちんと状況を握っておく必要がある、と。正直言えば、過去記事でも取り上げた人のせいでほとんど窓口心中に近い状態になり、案件を失注してしまったことがあるのですが、その経験からも顧客窓口の上司との関係づくりなどは必須であるなあ、ととみに思うばかりです。

 

■定例会議を見直して1vs1会議で案件進捗を追え

 営業課の定例会議でよく話題にあがる議題のうち、本当に課全体で必要な周知事項は下記だけ。営業マネジメント・マネージャーの最重要策は営業課員に「次の一手」をアドバイスすること。逆に各営業課員もほかの人の状況を知っても仕方がないというのは実はその通りでしょう。 毎朝10分で下記の事項を連絡して残りは全部1対1でやり切れというのは切れ味のある話と思いました。

 

以下は毎日朝10分での営業会議での伝達事項

① 営業社員に対する伝達事項

② 営業チーム内での情報共有

③ 確実の今月成績の見通しを積み上げ、営業チームの今月成績を確認する

④ 各自の直近1週間の特記事項(成功例、失敗例)を報告、全員で共有

⑤ 外出が多い営業メンバーのコミュニケーションや顔合わせで結束力を高める

 

逆に以下2点をしっかりと社内で営業社員とやることとありました。

⑥ 各自の直近1週間の主な商談進捗を報告し、今後1週間の営業予定を確認、指導する

⑦ ロープレする 

 

また、自分なりに、とか自分で考えて実行する、ということのレベルの低さを指摘するコラムもこの本では出てくるのですが、それもまた腹落ちする部分がありました。

 

■営業は圧倒的に「質より量」 

 「営業改革は1日平均240分以上の営業量と切っても切り離せない」、という文言が出てきてなかなかに度肝を抜かれます。240分というのは6時間です。6時間も1日に営業活動をできている社員がどれくらいいるでしょうか。逆に無駄な内勤時間(無駄な勘所を抑えていない提案資料作成とか)を180分くらいは減らそうという取り組みでもあるのですが、これはなかなか驚くべき提案です。実際に提案に移してみようと想像してもなかなかうまくいかない施策ナンバー1ではないかとも思います。

 

 営業各位が240分の営業時間を確保しようと思うと、常にその週のアポを取り続けなくてはなりません。そして、そうした案件や顧客を常に開拓し続けなければ、定められた営業時間を確保することもままなりません。そういう意味で営業マンに新規開拓をするよう発破をかける施策・メッセージでもあります。 予想通り、ここで1万時間の話が出てきます。1万時間というのはその道のプロになるのに必要とされる平均的な所要時間と言われています。1万時間とは実は普通に長い。

 

 また、1日の時間の使い方の中で「移動時間を抑えろ」という話も出てきますが、こちらはついつい見過ごされがちです。営業顧客が県外や地方に点在する場合は、どうしてもこうした発想にも至りません。また、営業件数を営業目標にするな、というのもまた強いメッセージだな、と思いました。


■無駄な日報は書かせるな、分析したいデータだけを書かせろ

 まさに1億データ分析時代らしいパートだと思いました。分析しないデータまで事細かに書かせると営業マンはその仕事が面倒だし、何に使われているかもわからないから誰もやる気をもって日報を書かないだろう、というのはまさにその通りと思いました。また、必ずしも営業マンは国語がそこまで発達していない、なので文章を無理やり書かせてもしょうがない、というのもまた膝を打つ思いでした。確かに。また、商談内容をパターン化して、分析するというのも取組みとして共感できるものでした。

 

プレイングマネージャー制度が本来、果たすべき役割

プレイングマネージャーでは部下を見切れないので、早くやめなさいという指摘もうなずけるものでした。

 プレイングマネージャーではそこまで器用ではないし、時間的な余裕もない。

 プレーイングマネジャーではなく、専任マネージャーが日々、各営業マンの進捗を確認しながら、要所でCheck、Advice, Trainingを行い、必要に応じて5-10分でいいので、ロープレ(Roll Playing)をする、というわかりやすいが、意外と実行が難しいと思ってしまう施策でもありました。同行営業にも物理的限界があるし、最大限に各営業マンの能力ややる気を引き出すのには必要な施策だな、と感じ入りました。なので、個々の営業マンが直行直帰するにしても必ず、1対1でどういう話をしたのか、どういう商談を進めているのかを確認する、という作業は非常に重要ということにもなります。

 

 これは、「自分で成長し、自分で成績を稼ぐ営業マンを組織としては是とするな」、ということでもあると理解しました。優秀な営業マンはそれはそれで指導の必要もそれほどなく、それで当座はよいのですが、そうでない営業マンをどう底上げするか、という観点で営業マネージャーが営業個々人にどう接するか、というところを考えていきたいですね。がむしゃらにできない営業マンを長時間残業させるのでもなく、教育しないのでもなく、きちんと教育して、長時間残業をしなくても結果が出せる組織づくりに心を砕けるか、というところが重要になってきます。

 

■営業マニュアル

 確かに営業という行為・アクション・日々の活動ノウハウは明確にマニュアルとして文字起こしをすることが難しい話ではあります。きちんと本来はノウハウが明確に文書化されて共有されてシェアされるべきでしょう。言われてみると納得ではありますが、意外とできている会社は少ないのかもしれません。

 知識に関するところでは、それだけでは足りないということを前置きしつつ、営業マンがきちんと身につけていることもまた、重要。

 この本が言うところの「営業マニュアル」で教えられることはもっと基本的かつ再現性のあることであり、単に教えてわかる商材知識などは含まれない。例えば以下はマニュアルに含まれない内容。 

 営業マニュアルとはこの手の知識情報が多いと思うがそうではない、というのが意外。

マニュアル化しない内容

① 自社商材知識

② 他社商材知識

③ 業界市場知識

④ 商材関連知識

⑤ 関連法律知識

⑥ 関連学術知識

⑦ 教養雑学知識

 

逆にマニュアル化されるべきスキルとして下記のようなものが10個ほど挙げられていました。言われてみるとどれも重要ですが、意外と誰も教えてくれませんね。。。私が上司に教えてもらえた技術は何か?というと、②、③、⑧あたりでしょうか。例えば電子部品・電子材料の法人営業を考えた場合、顧客とのテレカンが増えてくるわけだが、テレカンをする際のお作法などは実はきちんとマニュアル化されてしかるべきだろう。

 

マニュアル化できそうな技術

ヒアリング技術

② 説明技術

③ シグナルキャッチ技術

④ 印象良化技術

⑤ 商談展開技術

⑥ 滑舌技術

ディベート技術

⑧ アイコンタクト技術

⑨ 感情コントロール技術

⑩ ノンバーバルコミュニケーション技術

 

 

営業マンの自己変革、3つの方法

① できる人のまねをしてよいところをできるだけ盗む

② 営業量を1日平均240分以上にして質を担保できるところまで量を積み重ねる

③ 上司への報連相を積極的におこなってアドバイスを積極的にもらう

 

特に③は面白い。上司からアドバイスをもらうことで自分の糧とするのですから貪欲さが必要。