対岸の火事ではなくなった

 前回の記事ではコロナウイルスによる日本の影響を心配するアメリカの人々について触れた。

 

■日本の対応

 日本は今度は逆に感染者数の増加や死者数の増加をなんとかギリギリ抑え込むに至っており、世界からはその対応に注目が集まっている。

 今回のコロナウイルスの感染爆発は確かに死者も目立つが死者は医療崩壊してしまったエリアで急激に増える傾向にあるということがわかっている。当たり前だが、PCR検査後の陽性患者を14日間も隔離することで病床は容易に足らなくなる。普段はそこまで多くの人が病院に入院することを病院側は想定していない。どんな大病院でもそれは不可能だろう。そうなると、韓国のようにむやみやたらに検査するのではなく、重症化した人だけが検査に来てほしい、熱が4日間以上下がらない人が病院に来て、熱があったら会社は休んで、会社はできるだけテレワークして、子どもは感染しても重症化はあまりしないようだけど媒介にはなりえてしまうからできるだけ家にいて、という様々な日本政府が打ち出した要請という名のお願いは日本では非常に効果的にはたらいている、ということなのだろう。今のところ、日本政府や日本はなんとかこのコロナウイルスによる被害を抑え込んで立ち直ろうとしている。 が、政府による自粛要請はまだ続いており、大規模イベントは中止されており、様々な打ち合わせや会合が中止になっている。卒業式も無かったり、小中高校はいずれも3月にたくさん思い出を作る機会を永久に失った。

 アジア人を差別するフェーズは終わりを告げ、一気に今度はアメリカ人が感染・罹患するケースが激増してきた。NY株式市場は毎日乱高下し、様々なところで分断が進んでいく。タイトル通り、アメリカでも対岸の火事ではなくなった。

 クルーズ船ダイヤモンドプリンセスの件で日本政府や厚生労働省のお粗末な対応を世界が心配したが、今度はグランドプリンセスという巨大クルーズ船がサンフランシスコに入港し、問題が無いとみられた旅客は既に段階的に船を降りている。

 

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 世界中で非難を受けていた対応も今となっては過去の話になり、欧州や米国での感染者数は日本を笑えないレベルに至っている。

 

■グローバリゼーションとその反動、そしてウイルス

 思えば、2000年代以降、グローバリゼーションは加速してきた。製造のオフショア化が進み、製造業で言えばAppleのように完全にオフショア化し、製造をEMSに委託した会社が世界的な成功を収めた。シリコンバレーでデザイン・設計し、製造は一気に中国で大規模に立ち上げるのが勝利の方程式となっていった。その後、中国経済も伸びていくにつれて、生産地としてだけでなく、消費地としても注目を集めるようになり、そして、中国の中間層はおそらくとっくの昔に数億人レベルとなり、ある時点からは莫大に消費する主体になった。日本でインバウンド消費、などと言われるようになったのはおそらく2014年以降だろうし、中国のスマホ市場が一気に注目され始めたのも中国のローカルスマホメーカーが注目され始めたのも2013-14年を境にしているだろう。日本経済はこの旺盛な消費に支えられ、日本経済のみならず世界経済は中国を無視できなくなっていった。世界を旅行すれば、どこにでもいるのは昔は日本人だったが、それは今は中国人になった。

 中国市場は大きくなり、中国には様々なサプライチェーンが拡大してきたわけだが、今度は一気に中国で都市間の分断、武漢の封鎖などが起こり、中国のサプライチェーンが寸断され、更にそれは連鎖的に世界のサプライチェーンにも影響を与えている。

 アメリカはトランプ政権になってからこっち、対中国の関税政策を強めて対立政策を取ってきていたわけで関税政策の行く末は非常に注目されてきたわけだが、そもそも論で中国自体がそれどころではなくなり、アメリカも今この瞬間はそれどころではなくなった。分断しようとしていたら、本当に分断せざるを得なくなった。 中国武漢で始まったコロナウイルス感染拡大はもはや世界的な感染流行になり、昨日、WHOはパンデミックを宣言した。今日時点では米国は英国を除く欧州各国からの入国も制限するに至った。

 

イタリアの致死率はまさかの武漢越えになっている。

business.nikkei.com

 ここ数年はグローバリゼーションの反動からBrexitであったり、トランプの対中政策だったり、TPPのアメリカ離脱だったりと各国の分離・分断が進んできていたが、更にここにきて、各国がおのずから自国民を守るために分断を進んでおこない、国や地域同士の分断だったものが、今回のウイルスへの対応により、企業や地域、コミュニティ、更には個々人にまで及んできた。いたし方が無いことではあるにせよ、それでもこのインパクトはすさまじい。

 

■米国での生活

 もはや、日本は大丈夫か?とかいう人はおらず、米国ではどうこの状況をSurviveするか、というフェーズに完全に移行した。NY州では州兵がある感染爆発したエリアを1㎞四方封鎖したというニュースを見るにつけ、教会などには今は行くことが非常に危険だと思われる。迷える子羊たる人を本来であれば救う場所であるはずの教会が韓国でもNYでも中東でも感染爆発の契機となってしまい、クラスターを作ってしまっているのはなんとも皮肉ではある。

www.gizmodo.jp

 アメリカや欧州ではすでに感染が拡大している。日本や韓国、台湾の人からすれば少し不思議に思えるかもしれないが、アメリカで住んでいてマスクをしている人を街中で見かけない。スーパーマーケットにはマスクは売り切れになっていて、トイレットペーパーなどの日用品も飛ぶように売れていたが、マスクだけはなぜかしている人がいないのに売り切れている。中国人が買い込み、自分の故郷へ送ってしまった可能性も多分にあるのだが、真相はわからない。ただ、マスクがあったとしても誰もしていないのだから、感染拡大は待ったなしなのだと思う。マスクをしていると周囲が余計な心配をするから、とうことでマスクをしないそうだが、これでは飛沫感染を完全に防ぐことは難しいだろう。

 私の働く会社でも日本の本社は2週間ほど前からテレワーク主体に切り替わり、アメリカ側でもサンノゼオフィスは今週からテレワークが原則となった。長女のプリスクールではMaiximum Effort=最大限の努力が続けられ、まだ開校しているが、いつ閉じられてもおかしくないというメールが昨日、来た。数多く予定されていた春のプリスクールのイベントが遠足など含め、ことごとく中止になった。娘の友人のバーステーパーティも軒並み中止。プレゼント買っておいたものも宙に浮いてしまった。娘の誕生日も今月だが、楽しくパーティを開催するわけにはいかなくなった。これは家族にとってはとても悲しい出来事だ。もはや、家族が元気でいるだけでも感謝すべき状況なのかもしれないが。

 アパートメントのリーシングオフィスからは、必要な連絡はすべてメールで行い、リーシングオフィスには来ないようにというメールが来た。つい2月の中旬頃にはアパートメント主催の立食パーティをしていたが、その時の雰囲気からは激変である。(立食パーティやビュッフェ形式のパーティは今回のコロナウイルス対応で最も避けなければならないシチュエーションである。感染拡大はそこから広がっていると考える。)

 私も今週から「WFH=Work From Home」ということになったが、今週オフィスが入っているテナントでも濃厚接触者がいたことがわかっており、テナント自体は相当、消毒したと言っているのだが、アメリカのクオリティなのでどこまで信用できるかは微妙なところもある。(うちのテナントはあまり信用できないんだよなあ。。。)アメリカに来てからわかったことだが、衛生に対する高い意識は日本ほどではない。意外と汚いし、掃除も行き届いていない。(高級ホテルとか行くと少しはましだが。)会社側もさすがにこの状況でオフィスに来いとは言わない。結局、配達物を受け取りに行かないといけないので、オフィスには定期的に行く羽目にはなりそうだが、オフィスにはできるだけ近づくなとも言われている。うーん、致し方が無いとはいえ、難しいかじ取りだ。人と会う仕事だけに、人と会うな、外に出るなと言われるとどうしても鬱屈する。もともと、外に出るのが好きなだけになおさらだ。WFHの「できるだけ家にいて感染リスクを避けなさい」という趣旨からは外れていしまうが、娘たちがいる家で仕事をするのは実質的に不可能なため、家から歩いて行けるカフェないしは図書館などで仕事をせざるを得ない。メールやSMSや電話で仕事するのも資料を作ったり御託を並べるのも慣れているんだが、打ち合わせやプレゼンなどの営業ならではのインパクトのある仕事はなかなかできなくなるし、出張者も日本から来られないのでひどく静かだ。フラストレーションもたまる。

 家族と暮らしていると、日々、妻も私も忙しく、この手の危機に直面したときに色々考える暇が無い(ような気がする。実際には本当に時間が無いわけではない)。目の前にパッと出てくる情報に飛びついてしまったりもする。そういう意味ではパニックになったり、混乱したり、慌てたりする人たちの気持ちもよくわかるし、情報を精査するのが得意ではない人たちがパンデミックではなくて、インフォデミック(情報爆発)に陥ってしまうのもわかる気がする。

 こういうときほど一度、息を吸って、情報を精査する気持ちを持ちたいところである。(本当は情報ソースからも離れていたいが、仕事柄そういうわけにもいかない。)