2020/06/02_JETRO主催 今後のイノベーションを考える 企画 第1回

大谷俊哉氏 Co-founder and managing director TransLink Capital

20年以上にわたるハイテク企業のマネジメント及び投資の経験を有する。三菱商事で複数の米国ベンチャーとのビジネスに取り組み、営業、マーケティング、プロジェクト運営、事業開発と多岐にわたる役割に従事。スタンフォード大学にてMBAを取得後、光通信の米国VC部門のPresidentに就任、パロアルトオフィスにて、投資チームを指揮し、WebexやSiRFなどの有望な投資案件を指揮。その後、Everypath, Incの上級副社長としてコーポレート戦略の再構築に貢献、日本支社を設立し、General Managerとして日本における事業運営を指揮。2006年にVCのTransLink Captalを共同創業し、現在に至る。慶応大学にて機械工学の学資を取得。スタンフォード大学にてMBAを取得。Silicon Valley Japan Platform Fellow.

 

立野智之氏 Managing Director ICMG USA

日本、米国、アジアのクロスボーダー新規事業・組織構築支援に特化したManagement Consulting会社であるICMG社USA法人責任者。日本企業を顧客に、主に米国での事業展開に伴う組織構築、Executive Search、企業買収後のPost Merger IntegrationをHands onで支援。インターネット黎明期の1995年、Menlo Parkにて$78MのCVCを立ち上げ、米国ベンチャー企業M&A・AI研究所設立に責任者として従事、2000年日米クロスボーダーのコンサルティングファームであるTP Partners設立。過去25年、自社含めシリコンバレーに進出する日本企業の新規事業組織立ち上げに携わる。1988年から7年間はNew Yorkにてリクルート社USAのデータセンター事業責任者。渡米前はエネルギーインフラ・エンジニアリング会社 日揮にてProject Management System Engineerとして東南アジア、中近東、西アフリカ駐在。慶応義塾大学大学院工学研究科修士。アイアンマン35回含む150以上のトライアスロンレース完走。現在、サウサリート在住。

 

坪田駆氏 Principal SAP Labs Silicon valley(ファシリテーター

シリコンバレー最大のアウトサイダーとして4,000名の従業員を抱えるSAP Labsの一員として、日本企業との新規事業共創を推進するビジネスデベロップメントに従事。老舗IT企業がシリコンバレーのエコシステムを活用し、自己変革に成功した経験をもとに、年間3000名を超える日本企業のリーダーにデザイン思考を活用した事業変革を啓発する。日本最大級の新規事業リーダーコミュニティ「Business Innovators Network」ならびに次世代リーダーコミュニティ「Relay」主宰。スタートアップアクセラレーター「SAP iO」ベンチャーパートナー。経済産業省「始動 Next Innovator」プログラム シリコンバレーメンターなど。国際基督教大学にて国際関係学 学士を取得。日本オラクル、SAPジャパンにて製造業のグローバルカンパニーのデジタルトランスフォーメーションを支援する営業リーダーを務めたのち、2017年より現職。

 

アジェンダ

  1. これまでのシリコンバレー
  2. これまでの危機をどういう日本企業が乗り越えてきたか
  3. アフターコロナ、With コロナ

1.これまでのシリコンバレー

坪田:今日は変動性の高いシリコンバレーで日本企業がどう立ち回るべきか、どういう日本企業が乗り越えてきたか、という話を前向きに議論していきたい。過去最大の1000社弱のシリコンバレーへの進出している日本企業。イノベーションに限って拠点を置く企業も増えてきている。2015年以降相当増えている。今はまさに第4次ブーム。シリコンバレーのVCディールの経年推移とシリコンバレーの山と谷がある。Deals数・投資金額と日本企業の進出社数の波は一致している。

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立野:1番初めの山は.comバブルと呼ばれる時代だった。ゴールドラッシュ的。2000年4月15日がバブル崩壊の日。Tax リターンの日。各投資家が一気に損切りしてバブル崩壊した。当時80億円くらいの投資責任者をしていた。何かにつけて、色んな分野に様々な会社が取るに足らない案件(なんでも、.comでWebsite作ったりサービスを作ったり。。。)で投資誘引が多かった。そのあとはバイオテックバブルがあった。ライフサイエンスは非常に難しい分野だった。そのあとはクリーンテックバブルという名のバブルがあった。太陽光発電など。ただ、半導体企業が名前を変えているくらいの話だった。日本が逸してしまったのは携帯電話だった。IoTでの日系企業には非常に期待している。昔のシリコンバレーへの進出企業はITに関連する企業が多かったが、IoTに向けて異業種がどんどん進出してきている。日本企業が生きていくにはデータサイエンスやAIやデータでのお金稼ぎで勝負をするのはうまくない。ものづくりやプロセスエンジニアリングは世界に冠たるものがある。ものづくり企業はデータ屋には作れない。コロナインパクトの後に、IoTで日本企業は勝負していくべきだろう。

 

大谷:2000年前後のインターネットバブル、そして2008年のリーマンショック、その後の拡大が一般的な理解。インターネットバブルの震源地はシリコンバレーだった。虚業がオーバープライスになったが立ち行かず崩れていった。リーマンショックサブプライムローンが原因。NYが震源地だった。震源地がシリコンバレーというわけではなく、アメリカのVCのディールはそこまでリーマンショックの影響は受けていない。そういう意味で.comバブルとリーマンショックは性格が大きく異なる。.comバブル後に一気に住む人がいなくなってしまった。VCには影響はあったが、オペレーション上、大きく変わることは無かった。日本企業の進出数は景気に呼応していると思う。過去と今のIT企業の比率がかなり違う。金融や小売などの異業種の進出企業は増えている印象がある。ブームがピークに差し掛かってくる頃に進出が進む(=進出が遅い)のが日本企業の常。コロナ後に進出企業数が減ってしまわないかは心配。

 

坪田:日本企業の遅い早い、などは後程議論したい。あと、大谷さんの震源地という指摘は興味深い。深圳などポストシリコンバレーが出てきている。NY、ロンドン、北京、ボストン、テルアビブ、ベルリン、などなど。引き続きシリコンバレーイノベーションを考えるうえでどうなっていくと考えるか?コロナの影響はあるにせよ、ひとまず、そこは無視して考えてみたい。

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大谷:分散はしてきている。色々議論があるが、実態からすると、シリコンバレーシリコンバレーであり続けている。全米の売上の5割以上はシリコンバレー。世界で見てもまだまだシリコンバレーはテクノロジーイノベーションのハブであり続ける。シリコンバレーは土地ではなく、生活様式であり、人が集まる場所である。そういうものが複雑に絡み合ってシリコンバレーを形成している。アジア人比率が多く白人が少ない場所もある。この場所を単にアメリカと捉えると語弊がある。天気も良いし、お金も人も集まってくる。弁護士事務所や投資銀行やVC、コンサルなど様々なエコシステムがある。一夜にしてこのエコシステムがどこか別の場所で再現できるとは思っていない。これらがあり続ける限り、シリコンバレーイノベーション震源地であり続けるだろう。Ebayから出てきて大きくなった会社や投資家もあるし、リーマンショックから派生した会社もみんな、Uber, Airbnb、Glassdoorなどもみんな、シリコンバレーの会社。1点違うのは成長要因。90年代の会社と大きく違うのは投資先の会社の社員やBizは非常にグローバル化している。社長や副社長はシリコンバレーだが、開発はイスラエルで最初のお客は韓国、みたいな会社も増えている。こういう会社をどう支えるかが我々のような投資家にとっては課題。

 

坪田:日本企業がシリコンバレーで活躍している。イノベーション拠点を置いている企業はなんとアメリカ企業よりも増えている。投資額や投資する会社の数だけでなく、最近の日本企業の活動の「質的な変化」や「本気度」、みどころについてどう考えるか。

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立野:耳の痛い話もしなくてはならない。進出企業数の伸びを見ると日本企業の横並び体質が非常にあらわれている。Plug and Playには日本人ムラになっている。Plug and Playはもともと絨毯屋さんだが、ここのマーケティングは非常に匠。Aという会社が入居すると、競合のBやCもついつい、入居してしまう。日本人ムラが出来てしまう。残念ながら、横並びでPlug and Playに入居してしまった会社はうまくいかないだろう。上から指示されたから、とか横並びで来てしまった下心のあるような会社は成功しないだろう。長年の歴史を持っていたり、経験や勘・職人のノウハウとAIやクラウドやセンサーと補完しあっていこうとする目的意識がある会社は強いと思う。あるいは、ホンダシリコンバレーの杉本さんが活躍していることを鑑みると、ITの世界に入っていく中でシリコンバレーのITの会社と組まないといけないという危機感を持って進出している会社のほうがうまくいく。日本のエンジニアはメカニカルに強いが、コネクテッドカーやMERSには既存リソースで賄えないという危機感がある。駐在されている方はそれぞれにミッションがあると思うが、ミッションがその会社にとっての頭痛薬を探しているのか、じわじわ効くビタミン剤や漢方薬を探しているのか、それとも物見遊山なのかによっても変わってくるだろう。

 

坪田:人生で最初に担当した会社がホンダなのだが、杉本さんが担当していることは確かにホンダの中では相当異質だとは感じる。目指すべき方向、トップダウン、オープンで治外法権などいろんな要素があるのだろう。

 

大谷:7-8年前から考えると進出してくる会社の性質が変わってきている。IT企業が90年代は多かったが、IT以外のリテールや金融機関、ITに関係無い企業がたくさんシリコンバレーに来ている。ITがビジネスの根幹に入っているということがBizを突き動かしている。日本企業の進出数は増えているが、ボトムに考えることを丸投げして、とりあえず行かせて優秀な人に「考えてこい」と派遣するケースが非常に多いが、これはうまくいかない。少なくとも経営層が何を欲しているか、というショッピングリストが無いとうまくいかないだろう。こういう視点が無い日本企業はダメだろう。

 

坪田:うまくいっている日本企業はあるだろうか?

 

大谷:うまくいっている企業はやめない。アップダウンはあるにせよ。住友商事などはずーっと投資を続けている。継続は力なりと言うが、投資家はみんな、過去のことをよく覚えている。ずっと継続してコミュニティに入り続けるというのは重要なことだろう。また、ショッピングリストを持っているのも重要なのではないか。大企業のみならずアジア系企業は3年サイクルで駐在が代わるが、これは間違っている。なぜかというと、属人的な部分がものすごく多くて、引継ぎなどは実質的にはできないから。ある程度人を据えて継続的な活動ができることが重要。日本企業はこういうところを意識していく必要があるだろう。自分のミッションを理解して自分で動ける人は稀だが、そういうところを意識しておくのがいいんだろう。人の優秀さやスキルというよりは。

 

坪田:シリコンバレーの日本企業論を取り上げたい。組織を成功する企業としてどういう構えをすれば、どう立てつけていくかというのが立野さんの専門。多くの日本企業は「砂漠から砂金を探すような」「何か当たればいいよね」という事業の探し方をしている。欧米企業は大きな経営計画からの逆張り、コーポレートストラテジー・コーポレートアーキテクトを持っているという立野さんのお話を伺いたい。

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立野:よくUSに進出してくるベンチャーと付き合う日本企業の人たちの肩書に書いてあるVP Biz Developmentなどという肩書があるが、Business Developmentはアメリカでは「賢い営業マン」くらいの位置づけである。新しい商品やサービスの売り方を探す仕事。Business DevelopmentとCorporate Developmentとは全く違う。シリコンバレーを活用するのはBusiness Developmentではなく、Corporate Developmentというファンクション。Corporate developmentは日本の経営企画にありそうな肩書だが、賢い大学を出て、エクセルのスプレッドシートが上手に書けたり話が上手だったり、調整がうまいという日本の典型的な経営企画がCorporate Developmentではない。

 会社の1年後、3年後、数年後をまとめて理想図を書くことが重要。足りないものを書いたり。時間軸を書いたり。急いでいるときは買収したり、ベンチャー投資をしたり、する。道具を探すのか、部品を探すのか。会社のあるべき姿・設計図(Corporate Architect)・海図を探す上で、どういうものを探すのか、その探し方がベンチャー投資かもしれないし、M&Aかもしれない。コーポレートのあるべき設計図、ショッピングリスト、航海図が必要。航海図を書くのは会社の経営層がすべきところ。Cレベルの人が今後、会社が進むべき海図を書いたり、「足りないものを考えて方針を出していくのが経営者の仕事」であり、これは担当者がボトムアップですることではない。前線基地で海図も無いのに動いている担当者はたとえ優秀な担当者でも苦労するだろうが、結果が出せないだろう。コーポレートアーキテクト、戦略をトップダウンで考えていってほしい。これ以外にはシリコンバレーで成功の道は無い。こういう設計図のもとで動いている人はうまくいくだろう。

 

坪田シリコンバレーでは、レイターステージ向けの投資についてはコロナの影響は回避できている。USの半分以上の投資額はシリコンバレーだが、YoYではそこまで影響を受けていないように見えている。成熟企業への投資も影響軽微に見える。

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坪田:しかし、日本企業の過半数の企業は30%以上がイノベーション活動量を減速させると回答している。コロナ影響は日本企業の活動にどう影響を与えていくか?

 

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大谷:コロナ後、実態としては投資はスローダウンする可能性が高いと考えている。今この瞬間、レイターステージが落ちていないのは仕掛案件が続いていた。あと、レイターステージはパブリックマーケットの影響も受けやすいので、現時点では株価が落ちていないのを反映しているだけと考えている。アーリーステージに関して言えば、慎重にはなる。件数は引き続きあるが、投資金額が絞られてくる。VC業界ではそういう傾向。

 日本企業への影響で言うと、アメリカで言えば、総投資額に占めるコーポレートVC(CVC)の投資金額が増えてきたが、今後これは減るだろう。会社業績に連動して会社は投資をするので、今後減っていってしまうだろう。日本企業は高値掴みして安く売るという傾向が続いている。過半の日本企業では同じことが起こってしまうだろうと思っている。その中で継続的に「広い意味での投資」ができる企業がシリコンバレーでリスペクトを受けて継続的に活動していけるだろう。

 

立野:難しい話。本業が立ち行かなくなれば懐が浅くなり、将来投資が鈍るのは致し方が無い。イノベーションやCVCのお金の扱い方が重要。95年にVCもわからない時にあるファンドにお金を入れた。5年間に5億円を1年おきに1億円ずつ5年間入れていった。慣れていなかったので、毎年1億円ずつ入れていったが、これは失敗だった。慣れているAdobeIntelが同じようにファンドに投資したが、社内の決定済みの枠5億円をドーンと入れてしまい、5年間にわたって、という形にこだわらなかった。日本の親会社の銀行口座からシリコンバレーのVCへお金をどんどん移すくらいの勢いが必要だろう。

大谷イノベーションは色々あるが、事業開発、マイノリティ出資、買収、最終的にはPMIで事業を伸ばしていく、など色々ある。日本企業で言えば、残念ながらそこまでうまくできる会社はあまりない。できる会社もあるが少ない。PMIなどもへたくそな会社も多い。買うというときには今後安くなるのは分かっているので、チャンスに能動的にこういう悪い時に事業買収をするような姿勢が重要。日本企業で見ていると、結果論かもしれないが、リクルートIndeedを買ったりしたのはすごくうまくいった例だったと思う。最終的には買収までできればイノベーション活動の果実が得られやすいと言える。大企業のトップラインにベンチャーが影響を及ぼすのは現実的ではない。

坪田:買い時、高値掴みの話も興味深かった。クライシスのたびに良いスタートアップが生まれてくるという話があったが、今、産まれてくるスタートアップは買いか?

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大谷:経済危機の際、ある意味、慎重にならないといけないが、投資のタイミングともいえる。過去の経験から言えば、リーマンショック後にで生まれた会社Uber, AirBnBDropboxGithub、Squareなどなど様々なスタートアップが2009年以降に生まれたのでこういう時期に投資をするのが結果的に成長するのは事実。理由は簡単で悪い時はファンドレイズしづらくなり、引き締まった会社が出てきて、投資が絞られているので、筋肉質なスタートアップがいっぱい出てきてダメな会社が淘汰されやすい。今回も同じ側面があるが、若干、過去の不況時と違うのは「人に会えない」のは結構投資家的には大きな問題。1回も社長に会わずに投資できるか?というと、、アーリーステージに投資するときは「チームに賭ける」部分がものすごく大きくて、チームに賭けるのにも関わらず、チームに直接会えない。投資家が投資をする時に参考にする周辺情報はかなり多いがZoom MTGではこれらの周辺情報がすべて欠落してしまう。過去の不況と比べるとどうしても時間がかかる。オフィスや実際のオペレーションの様子とか見たい。初めて会う会社の人たちとは一緒にハイキングしたりして、もちろん、距離を取りながらですけど、でも投資先に会おうといろんなトライはしている。長引けば長引くほどいろんな努力が必要。この時期に、次のUberはまた出てくるのだろうとは思っている。

 

立野:ポストコロナにはコロナの直後のフェーズとワクチン開発後のコロナを忘れていくフェーズという2つのフェーズがあるだろう。ワクチン・特効薬が出来てしまった後は今あるものが単純に伸びていくだけだろう。正直、薬ができるまでは夏休みではないが、一休みと捉えるしかないところもある。

 領域で言うと、Fintechは伸びていく。Fintechを一言で言えば、個人が銀行になれること。個人が送金できたり、投資運用できたりすれば、銀行が不要になる。こういう既存のサービスなどを駆逐してしまうようなFintechは今後出てくるだろう。ヘルスケアにITが入ってきてテレヘルス・遠隔診断なども伸びていく。こうした重要な情報がインターネット上を飛び交うと、インターネット上で悪さをする人たちも増えてくる。こういう人たちに対するセキュリティも伸びていくだろう。

 皆さん、知っていると思うが、ガートナーが提唱している「ハイプサイクル」は有用だろう。これは横軸が時間軸、縦軸は見え方。ハイプサイクルですべての技術は推移していく。このカーブがどれくらいの速度で動いていくか。新規事業をやるときはこの上に自社をマッピングしていく。例えば、自動運転などもそう。いろんな会社が参入してきて、技術が収束し、勝ち組が決まり、落ち着いていく。これがモノになるには10年かかる。加速度が遅い。この絵を描くのが将来の会社の将来像を描くこと、どういう加速度で動いてくか、海図を描いて考えていくことが肝要だろう。

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坪田:日本企業が成功を収めていくにはどうすればよいか。日本企業はどうすれば、シリコンバレーを活用していけるか?

 

大谷:担当者レベルが今日のWebinar参加者のうち、50%くらいいる。ボトムアップで経営者に伝えるためにはやはり物理的にシリコンバレーに来てもらって肌感覚を身に着けてもらう必要がある。ある保険会社では執行役員全員を1年以内にシリコンバレーに来させた。1回も現地に来ないで議論するのはやはりダメ。そういう問いかけを経営層にしていくのは重要だろう。ただ、来ただけではダメで、Facebookの食堂でご飯を食べて、Google Storeでお土産買って、Apple StoreでTシャツ買って帰るのは最悪のパターン。いろいろな経営層を見てきたが、経営層は人によっては自分の会社の紹介を英語ですることもできないレベルだったりする。例えば、某メガバンクの専務を私の友人のAmex Venturesに連れて行ったことがある。Amexでも経営者は四半期に1度、シリコンバレーに来てベンチャー企業にアピールに行き、Amexと付き合うメリットを説いたりする。Amexですらそうするのだから、某メガバンクもそれくらいやらないといけない、日本のメガバンクは無名なわけだし、とAmex Venturesの人が説いた。そのあと、実際にはそのメガバンクの専務の訪問が続いていないので、そこはまだまだ課題あり。こういう活動は定性的には評価ができるが、定量的な評価は難しく、定性的にやるしかない。

 

坪田:私は業務上、シリコンバレー日系企業の経営層に会うことは多い。経営層にこれまでの経験をアンラーニングすることはなかなか難しい。不快なことでも経験してもらわないといけない。Uberを自分で呼ばせるとかやらせないといけないのだろう。

 

立野シリコンバレーで様々なBiz Devを見てきた。

成功パターンでうまいパターンは例えば、バイネームで言えば、コマツの富樫氏、植野氏(元AGC)の動き方をよく見てみるとよいだろう。シリコンバレーでいるのはピッチャー。キャッチャーが本社にいないとうまくいかないというのは良く言われる。が、これはなかなか機能しない。コマツの富樫氏はコマツの将来図をCTO室できちんと描いて、海図を書いてそれを探す現地の便多リングはVCあがりの植野氏に探すことを任せて、富樫氏は世界中を動いている。現地ではベテランの植野氏を信頼している。このやり方は非常に素晴らしい。

 旭化成の森田さんも素晴らしい。森田氏はシリコンバレー駐在3回目。慣れてきたら戻すような会社が多いが、これではうまくいかない。現地に慣れている人に任せることが重要。シリコンバレーは一見さんには難しい。日本側のあるべき姿を語れる人と、現地で支える人がコンビを組めるのが良いだろう。

 

Q. 日本の東京は「イノベーション震源地」になっていない。日本市場の魅力が増すためにはどうすればよいか。日本市場のPRなども含めて、悩みが深い。どう考えているか。

 

坪田:東京のスタートアップのエコシステムがどう良くなるか。流れているリスクマネーシリコンバレー14兆円だが、東京は300億円くらい。中国は20兆円くらい。まだ課題が多い。日本ではスタートアップに就職すると、大手企業の年収1千万円よりも給料がややダウングレードする。スタートアップから成功していくスターが出てくる必要がある。東京でも増えてはいるが。。。まず、中国・深圳の人たちはUSに進出し、そのあと、中国に戻っていくウミガメ戦略というものがあったりする。こういう考え方をできる日本のスタートアップが増えていく必要はあるのだろう。日本企業はシリコンバレー進出には企業投資、買収、人材育成など色々目的があると思う。

 

Q. シリコンバレーで悩んでいる日本企業の人たちが多い。指針などがあれば、メッセージ・エールが欲しい。

 

大谷:組織にもいろんな立場の人がいるので一言では言いづらいが、個々人は視座を高く持って大義を持ってもらうことが重要だろう。社内外に対して、きちんと説明できる必要があるが、大義が無ければ難しい。シリコンバレーでは結局組織でもなければ会社でもなく、個人を見ている。大義を持っている人に惹かれていくことが多い。会社の目標との差異があってもいいのではないか。一人でも多くの日本人がシリコンバレーで活躍できることが、最終的には長い目で見て日本企業の競争力も上がっていく。優秀かそうでないかではない。視座をいかに高く保ち、モチベーションを持ち続けるか、が成功の成否を分けると考える。

 

立野:大谷氏のコメントに加えると、シリコンバレーは色んな会社があって、GAFAのような大企業を転職していく人たちもたくさんいる。今いるプロジェクトや業務が幸せか、面白いか?そこに見合った成果報酬があるか?成長ができるか?そういうKPIで動いている人たちがシリコンバレーでは多い。シリコンバレーの機能は自分がやりたいことを実現するための手段。

 極端なことを言うと、シリコンバレー駐在から帰任して、年寄の経営する会社のために頑張るのはやってらんねーとシリコンバレーに戻ってくる人シリコンバレーで伸びている。CVCに投資するときに個人でポケットマネーでも投資できるくらいの気持ちが入れられるかどうか?日立製作所東芝も役職定年などルールを変えていくわけで、終身雇用なんてもう実は存在していない。会社は勝手にルールを変えてくるのだから、それに振り回されるのではなく自分で動いていくべき。

 

坪田シリコンバレー3年目だが、IDEOの創業者と親しくさせてもらっている。彼から学んだのは2つ。

1つは成功するイノベーションの許容度。「Culture Add」という姿勢。イノベーションの施策に対する許容度を表している。多様性をどんどん広げていく姿勢、会社の文化を作り変えていく姿勢が苦しいけど会社の色が変わっていくことを敢えてやる。

もう1つは日本のクリエイティブマインドセット。クリエイティビティへの自覚。NECが過去にタブレット型パソコンをiPadの30年前から作っている。制約がある中で日本人はすごいクリエイティビティがあるのに自覚が足りない。日本人の英知や強さを活かしながらシリコンバレーで活動していければと思う。