電子部品・材料業界の定期価格改訂(プライスダウン・PD)と呼ばれる商慣行について

Twitter上で、野村さんが値引きについて下記のようにコメントなさっていた。

 

 

ふと、自分が今いる業界にある商慣行について考えるきっかけになった。

 

 

というわけで、解説記事を書く。

 

■まず、定期PD(Price Down)とは何か?
定期PD自体は電子部品、材料業界では多分かなりよくある商慣行。購入元である、調達部署が調達先であるサプライヤーに対して、定期的に値下げを要求してくる商慣行を指す。自動車部品業界でもたびたび見られる。

 

■頻度と規模感

調達部署は大体、多岐にわたる品目を加重平均で数%程度の値下げを半期や四半期に一回要求してくることが多い。10%-15%を要求してくるが2-3%程度に落ち着くことが多い。

 

■どういう形式か。理由は?

価格協力のお願いといったタイトルで調達部長名とか役員の名前が入った文書が送られてくることが多い。で、後日、調達部員ないしは時には役員がサプライヤーを行脚してきて価格を下げて欲しい的なお願いをしにくる。

 

値下げ要求の理由はおおよそ下記。

・市況悪化

・景気悪化

・調達環境の悪化(原材料の高騰)

・市況拡大

・景気拡大

・数量増に伴い調達規模拡大

実は購入数量が減っても増えても、価格を下げてほしいという要請になる。

 

■対応について

対応する場合の主な理由は下記。

・会社対会社の関係を重視

・調達と営業の人間関係を重視

 

対応する場合の条件設定としては下記が代表的。

・シェア維持

・継続購買の約束

・翌半期の数量見通しの提示

・為替調整(ドルや人民元購入の場合)

原油コスト、ナフサ、金属市況など材料の原材料が強く連動する場合はそことの連動

・古い材料・部品の生産中止(ディスコン

 

だが断る!と言いたいし言うことも稀にあるがやはり会社と会社の関係であるとか、調達と営業の人間関係がお互いに長い取引のために重層的になってるとなかなか断るのは難しい展開になることが多い。(大体、調達部も言いやすいところ・サプライヤー・自分が言いやすいところ、お願いしやすいところからお願いに回っていることも多い)
結局、調達がそんなこと言ってもそれなりに継続して買ってもらえなければ値下げするのもアホらしいのでシェア維持の約束であるとか、数量見通しを出してもらって翌期の値段を確定させることが多い。取り決めが無ければ、為替なども調整したりすることもある。ただ、毎半期にそれだけ値下げしてるとあっという間に利益が無くなっていくので新製品は高めの値段を置かせてもらってバランスを取ることが多い。こうした商慣行が続くため、技術的に陳腐化してしまうと数年すると、ものすごくモジュールの値段も下がることになる。(実際、液晶パネルモジュールはどんどん価格が下がっていく。受給が調整されると価格が戻ることも稀にあるが。)供給期間が長いものの中には、古い材料や部品を供給停止にすることを条件にしたりすることも大いに考えられ、代替品に切り替えてもらうよう調整したりもする。(古い製品を少量生産していると生産効率が悪いことも多い。)

 

対応しない場合には人間関係などが悪化する可能性はあるし、調達部署の上層部が会社上層部に乗り込んできて喚き散らすようなことも起こりうる。あまり禍根を残すと、調達部が出入り禁止にしたりして、参入余地が無くなることもありうるため、禍根が残らないように根回しして、調達担当者とうまく「落としどころ」を探るのが重要と言える。そのためには調達部署でどれくらい今回の価格低減の目標を設定しているのか、社内の雰囲気、今後の調達戦略などをヒアリングしたり、調達部署の人間関係を把握していくのが非常に重要になる。大体、調達部の方々の性格によるが、細かい人もいれば、おおざっぱな人もいて、数量情報や他社情報を教えてくれる人もいれば、メールだけで済ませようとする人もいる。また、調達部署がどの程度、設計部署などに対して強く言える会社か、という見極めも重要。調達部が大した力を持っていない場合、調達部と会話する意味がないし、設計部署などと話をして、決まった価格をただ、伝えるだけ、になるということも実務上はありうる。

 

また、トヨタなどは鉄鋼関連の部品を鉄鉱石市況とリンクさせて、交渉することもあったり、ナフサ連動で石油化学製品を価格改訂させたりすることもある。

newswitch.jp

 

■そもそも価格って継続的に下げられるものなの?

 大量生産すれば調達価格は下がるはず、という考え方のもとで効率化は当然自発的な図られていくもの、という前提で、客もサプライヤーも日々原価低減してることが大前提の商慣行とも言える。原価低減活動は材料メーカーや部品メーカーでは日常的に行われており、VAだとかVIだとかそういう名目で改善活動が日々続いている。装置の段取りを変えたり、向きを変えたり、省人化を進めたり、することで製造コストを削減していく。原材料や間接材料の材料費やプロセスコストを圧縮することで、コストダウンをしていく。原材料費はなかなか下がらないので、いかに効率的なプロセスで製品を作るか、というのがサプライヤーにも必要な考え方になる。

 

■いかにして競争力を担保するか?

 中国や台湾、アジアとの競争になると人件費が安い分、日本は不利になることが多く、いかに技術流出を防ぎノウハウを自社で持っておくかは極めて大事になる。要は真似されない部品、材料を作ることで参入障壁と値下要請障壁を作っておくということである。各サプライヤーの「真似されないための努力」は涙ぐましいものがあり、電子部品メーカーとしては大昔、シャープが韓国へのエンジニアの渡航をさせないようにしたり、村田製作所がセラコンを作る装置まで内製してるのは有名。人件費で云々ではなくて、陳腐化させない努力であるとか微細化だったりと技術トレンドをうまくロードマップと一緒に引いていく技術開発力や市場リーディング力が必要になる。プライスリーダーになると言い換えることもできよう。