BtoB材料の法人海外営業で磨いた製品提案の3つのコツ

「BtoB営業として海外エンド顧客に対して電子材料を提案する中でのノウハウってどういうものがあるんですか?」

 

 DX営業のノウハウを発信・伝播してらっしゃる野村さんにお時間をいただいてお話を伺っている中でふと聞かれて少ししゃべっていたところ、

「Kikiさんが普段、いつも通りにやられていることを「面白い」と思う人もいると思うので、ぜひ発信してみることをお勧めします!」というありがたいコメントをいただきましたので早速発信してみたいと思います。(野村さん、ありがとうございます!)

 野村さんはいつもTwitterやNoteで大変ためになる情報を発信してくださっていますので下記にご紹介いたします。

twitter.com

 さて、完全に自分も上司や先輩からの受け売りである部分も多分にあるのですが、意外と実践していない人も多く、そもそも、そうしたアクションにまで思いが至らない人も多いというのは知っているので、今日はそんな話をしたいと思います。

 

①提案書や技術資料から略語や専門用語をできるだけ無くす

②技術資料を提案書に仕立て上げる

③文章には必ず根拠や理由、データなら考察とその理由を書く

 

 

①提案書や技術資料から略語や専門用語をできるだけ無くす

 さて、新しい製品や技術、商品を海外顧客に提案するときに、スペックだけが書いてあるスペックシートを提示するようなことがこの部品・材料業界では割と頻発します。素人が読んでもぱっと見て、暗号の羅列、数字の羅列にしか見えないような資料も結構あります。

 スペックシートは専門用語のオンパレードでして、これは新規顧客でも既存顧客でもそうなのですが、顧客にそうした専門用語や業界特有の略語を読み解けることが大前提のものがほとんどになっています。こうした専門用語や略語を知らない人にとっては大変に難解な資料になっていることが多いわけです。これはBtoBの材料営業なら、誰もがやってしまっていることかもしれないのですが、これをやめていくと、新規業界・新規顧客への提案の成功率・商談での議論の質が上がり、案件化させる確率を上げることができるように思います。

 BtoBの材料営業や部品営業は「顧客担当者の全員が全員、この略語や専門用語を読み解けるわけではない」という点をついつい見落としがちです。BtoB商材を扱っている人たちが売り込む先は大抵、調達担当者か、技術者であり、特に「技術者であれば、この程度の知識は備えていて当然だろう」と勝手に思い込んでこの難解な資料を送り付けるだけの仕事をしているBtoB営業が結構多いのです。(自分の観測範囲では)

 で、いざ打ち合わせをすると、こういう感じになります。

 

顧客「この資料に書いてあるこの略語はどういう意味なの?」

営業「えーと、この略語の意味は〇〇〇ですね。」

顧客「(それなら、略さず書いておいてほしいなあ)わかったよ、ありがとう。」

 

顧客「このデータはどう読み解いたら、良いの?」

営業「あ、このデータはこういう解釈のデータで、X軸が〇〇でY軸が〇〇になっているグラフですね。」

顧客「(なら、そう書いておいてよ。。。)ありがとう。」

 

顧客「この資料、データしか書いていないけど、結局このページで伝えたいことは一言で言うとそもそも何なの?」

営業「あ、それはですね、えーと、ちょっと技術に確認しますね」

顧客「(なら、資料に結論書いておきなよ)。。。」  

 

 こんな不毛な質問と回答のやり取りが何回も繰り返されることで、「実際にその顧客が製品に対してどう思っているのか、採用検討をする気があるのか、興味本位で聞いているのかもわからないままに、貴重な1時間を浪費していき、アクションアイテムもその解答を用意するだけの打ち合わせ」を有意義な打ち合わせだと思って漫然と対応している人が結構いるんですね。

 

「お客さんはありがとう!って言っていたし、いっぱい質問もあったし、結構好印象かも」なんて思っていたりして。

 

いやいや、それ、相手がすごく気の良い人でなんにでもありがとう、って言う気遣いができる人だっただけで、でも実際には「ちっ、コミュニケーションが面倒なサプライヤーだわ。。。わかりにくい資料を送ってきて・・・。」と内心は思っている可能性も十分あるんですよ!

 

で、至極当たり前なんですが、こういう打ち合わせを何度繰り返しても全く、具体的なプロジェクトに繋がらないわけです。

 国が違って、売り込み先が海外だったりするとこの傾向はさらに強くなります。BtoC営業のように、お客さんには全く前提となる知識がないかもしれない、という前提に立てば、不親切な資料を間違ってもお客さんに出したりはしないのですが、BtoBで材料や部品を扱っているとプロフェッショナルに囲まれているせいか、それに甘えて、ついつい、技術者も営業も勘違いしがちです。

 業界が違う方々にはあまりピンとこない話かもしれませんが。業界経験が長い営業マンほどこうした傾向は強いところもあって、忙しい業務の中で、ついつい発信内容に気を配らずに、技術者が送ってきた資料をノーチェックでお客さんに提出したりその記載されている意味も分からないままにしておいたりしてしまうわけです。「みんな、同じようにやっているから、自分もこれでいいんだろう」、と思ってやってしまいがちなわけです。

 で、ここに実はBtoB営業としての差別化ポイントがあると思っています。

 お客さんが全くの素人である、という前提に立てば、こんな資料を送りつけることはしないはずです。なので、まず、この商品のことを初めて取り扱う1年生のごとく、まっさらな気持ちでまず、略語をできるだけ無くします。専門用語もわかりやすい表現に変えます。単位も略したりする技術者が多いわけですが、これも徹底的に資料を修正します。わかりづらい図があれば、その図の意味も書き足します。例えば、イラストや写真でもこれがTop viewなのか、Side Viewなのか、それとも、Cross Section Viewなのか、を書いてなかったりするわけです。これも追記する。

 この顧客提出一歩手前の資料最終修正をできるかどうか、が海外新規顧客開拓などではかなり大きな分かれ道になるとは思います。会社によっては、技術資料のマスターとなるパワーポイントやワードなどの改変可能な資料は技術者が管理していて営業サイドが資料修正をすることを許さない会社もあるかもしれないですが、こうした細やかなサポートが結構効率的な営業活動には効いてきます。資料修正・改善をするためには、もちろん技術者との密な電話ないしは対面でのコミュニケーションが必要になります。初めて、この資料を見るような気持ちで、資料に接して、社内の技術者を質問攻めにしなければなりません。もちろん、社内の営業マンにこのようにあれこれ根掘り葉掘り聞かれることを心地よいとは思わない技術者も多いでしょうから、営業マンも社内でのコミュニケーションスキルが求められます。うまーく社内の技術者の気持ちを害さないように話をして、技術者の頭の中だけにある知識や情報を引きずり出していく必要があります。

 

閑話休題

 最近では、ウェブマーケティングを強化している会社も増えてきており、そうした会社では、ウェブサイト上に商品情報、解説、それだけでなく、技術情報やジャーナルを掲載していたり、わかりやすい間口が広めの解説記事や用語解説を掲載する会社も増えては来ました。

 また、大手メーカーなどではわかりやすいストーリーを含めた、宣伝記事やインタビュー記事が専門誌以外に掲載されることも少しずつ増えてはきました。ただ、それは一部上場企業の中でも売上高や利益が高く、経営層もウェブに理解がある会社が大半かと思います。

 そうではない企業の中にはまだまだこうしたウェブマーケティングなどのアプローチはまだまだBtoB業界全体で一般化されているとは言い難いのが現実かと思います。

 

 日本国内顧客向けの日本語資料であれば、事細かに説明するのは技術者や営業が出張して直接訪問して説明すれば良いのですが、海外顧客向けだと時差や言語の壁もあり、そこまで流暢に説明できないケースや打ち合わせ時間が限られてしまうこともあると思います。こうしたことを踏まえても、たとえ、ウェブマーケティングを導入できている会社であっても、わかりやすい技術提案資料というのは非常に重要、と思う次第です。

 

ちなみにテスラやスペースXを経営するいまや時の人、イーロン・マスク「略語は最悪」と言っています。

elon.jp

イーロン・マスクは下記のように述べたと言われています。

個人個人にとっては、略語の数は多くなく、そこまで悪いことが起きているようには見えないだろう。しかし、1000人の従業員が略語を作っているなら、いずれ新人向けに膨大な用語集を準備しなければいけなくなる。

すべての略語を覚えるなど実際には不可能だ。そして、誰も会議でバカにされたくない。つまり、無知のまま座っているだけになってしまう。これは新入社員にとって非常にきついことだ。

まさにその通りと思いますし、我が意を得たりと思います。

 

 

②技術資料を提案書に仕立て上げる

 技術資料って、先述した通り、スペックしか書いていない無機質なものだったりすることが多いわけです。で、下手したらどうやってその材料を使うのか、どういう外観なのかもわからない資料も結構多いわけです。

 具体的なアプリケーション(用途)のイメージが湧かない。技術資料を用意している技術者は普段から、その材料に接しているので、必要最低限の技術データが掲載されていれば、それで十分でしょ、って思いこんでいる技術者も結構多いわけです。

 「そんなの伝わる人と伝わらない人がいるに決まっているじゃん!」って言われて初めて気が付く人や、「あなた、そんなこともわからないの?」と思う技術者も結構いるんですが、案外と新しい市場や顧客に向けて材料を売りに行ったりすると、顧客が必ずしも最低限の資料で理解することが難しかったりするんです。なので、この無骨な技術資料を提案書に生まれ変わらせます。

 これもまた技術者との2人3脚のコミュニケーションになるのですが、技術者に時間を確保してもらい、30分でも40分でも話をしながら、この技術資料の中で、その製品が持つ特徴を聞き出します。たとえば、高温環境での耐久性に優れているとか、ある特定の条件で使うことが出来る特殊な材料である、とか、すごく薄い材料だとか、すごく粘度が高い材料であるとか、そんな特徴です。もちろん、何かと比較したり、他社品と比較で来ているデータがあれば、それがあるのがベストなんですが、そういうデータが間に合っていない時ですら、こうした特徴と似た競合材料との特性比較について言及することは大変有意義になります。(もちろん、企業がウェブサイトや企業の広告でこうした比較広告を打ちだす時は当社比とか書かないといけなかったり、競合名は出せなかったりするわけですが。あと、嘘をつくのはコンプライアンス・企業倫理に反するので当然の話ですが、バックデータがあり、要請されれば、データを見せられることが大前提になります。)当社比であったとしても、何か難しい特性をクリアしているのであれば、それはアピールポイントになるかもしれません。そうした特性や特徴を3つでも4つでも集めて、資料の冒頭にもってきて、更にそれを補足するデータを用意します。

  • 製品名
  • 製品のスペック・できれば写真や図をつける。略語禁止。
  • 製品の特長3つか4つを大きく書く(決して小さく書かない)
  • 製品の特長のバックデータ(わかりやすい写真や図をつける。)
  • (データ取得方法も図や写真付きのバックアップスライドで用意)

 打ち合わせや資料提出のタイミング次第で、スペックと特徴の順序が逆になることもあるかもしれません。こうして、資料を仕立て上げて、顧客に提出しつつ、詳しく説明したいので打ち合わせしたい、という打診をするのが望ましいでしょう。

 製品によっては新分野であったりする場合は開発の動機(Motivation)であるとか、きっかけ、市場の予測などから話を始めても良いかもしれません。また、材料メーカーの場合は、ノウハウなので非開示にすることも多いですが、製品が良い性能を発揮できている理由を明確にしておくと、顧客の納得感も大きいと考えます。

 

③文章には必ず根拠や理由、データなら考察とその理由を書く

 

「〇〇は××である。」→NG

「〇〇は××である、なぜならば、△△だからである。」→OK

 

「〇〇は××である。」だけで終わってしまっている紹介資料や技術資料も多かったりします。日本語であれば、それも口頭で補足すれば良いでしょうが、海外で他言語だと、これを口で言うだけでは伝わらないことがありますし、これは海外に限りませんが顧客が打ち合わせで聞いた話をついつい忘れることもあります。

 なので、「〇〇は××である、なぜならば、△△だからである。」とBecauseやSinceから繋がる理由の説明を必ず付けて説明するようにしたいところです。

 これは提案書だけでなく、メールでのコミュニケーションなどでもよく見る話なんですが、日本人はメールなどで英語になるととたんに言葉足らずのコミュニケーションを始めてしまいます。なぜか、理由を書かないんです。なので、下記のようなやり取りが発生するんですね。

 

営業「A is B.」

 

顧客「Why are you saying that?」

 

営業「(えー?もちろん、A is Bの理由は分かっているけど。。。そんなのこのデータがあるからに決まってるじゃん。。。)Because we are saying that based on this data.」

 

顧客「OK, now I understand.」

 

 理由を聞かれれば、回答はもちろんするので、結局理由は説明しているわけです。この1往復が余分なんです。海外の顧客は忙しいんです。1分1秒でも多く働きたくない!のです。日本人と違って余計なメールはできるだけ書きたくないし、メールのラリーが続くのも大変苦痛なのです。働く時間をできるだけ減らして効率よく働いて家族との時間を大切にしたい、と大半の顧客は思っているのです。こうした文化や商慣習、ワークライフバランスの違いはあまり理解されることがありません。メールの向こう側にも人がいて、そのメールを受け取った人の顔や表情を想像しながら、コミュニケーションはするべきなわけですが、英語などの異言語になったとたんにこの気遣い、心遣いの発言やコメント、メール返信が出来なくなる人がたくさんいます。

 プレゼンの時にわざと、相手に質問させる、という高等テクニック、引っ掛かりポイントを敢えて設定しておく、というのもありますが、そうした高等テクニックをプレゼンという緊張する場でサクッと使えるような人はこの記事を読む人からは外れているかもしれません苦笑。

 さて、顧客を迷子にせずに、きちんと、文字のインパクトと話のインパクトで製品のことや自社のことを覚えておいてもらって、折に触れて、私たちのことを思い出してもらう必要があります。

 顧客とアポが取れたとしても、その時が顧客にとって最適な製品が必要なタイミングで提案される・提案できるとは限りません。そのため、顧客がふと思い出して資料をフォルダの奥底から引っ張りだしたときにもきちんと思い出してもらえることが重要です。なんなら、問い合わせが来るように普段からKeep in Touchしておけるのが理想です。

 このタイミングについても、結構独りよがりになってしまう売り手・営業・技術者は結構多くて、顧客はいつでも自分たちの方を気に掛けていたり、知っていたり、わかってくれていると、勝手に自分たちの都合の良いように解釈して考えている人たちが大変多いと感じることが多いです。顧客が製品についてわからないのは顧客の理解力が低いからだと考えている人も実際にいたりしますが、実際には営業・技術者から顧客への説明が不十分ないしは不適切なケースもたくさんあるのではないかなと思います。

 People want to see what they want to see, people want to believe what they want to believe.というのは元上司が好きな言葉なんですが、ついつい自分たちがそうあってほしいという楽観的な予想や予測をする時に戒めの言葉としてつぶやくようにしています。

 

さて、今回はこれら3つのコツを通じて、製品の提案をどうやって行うか、ということを説明させていただきました。会社によっては、技術者が完璧な提案書を作成することが出来る会社も多いでしょうし、こうしたコツが果たして、どれくらいの人に効果があるのか、理解を得られるのかは正直、わからないのですが、今回の記事が誰かの参考になれば、と思い記事を書かせていただきました。また、こういう内容の記事を発信していければと思います。