とあるJTCの様子「メタバースというのがあるらしいな」

もともと下記ツイートに対するアンサー的なツイートから始まったのですが、記事化しました。

 

とあるJTCの様子

経営者「メタバースというのがあるらしいな。」

部門長「はい。日経で読みました」

経営者「我が社も将来はああいうことが出来ねばならん」

部門長「御意ー!」

 

部門長「おい、メタバースで何が出来るんだ?」

部長「は、調べます」

 

部長「おい、メタバースで我が社は何が出来るんだ」
課長「は、調べます」

 

課長「メタバースで我が社は何ができる?部長に明日までには返事をしたい」
係長「は、調べます」

 

係長「今日の夕方までにメタバースに関しての市場資料と我が社の製品がどう貢献できるかをまとめて」
担当「ぎょ、御意」

 

担当「うーん、資料は富士キメラと富士経済と矢野経済から適当なグラフと数字引っ張り出して右肩上がりの市場実績にしてappendixに細かい数字入れてあとは今のウチのラインナップと今後の戦略っぽい絵とロードマップを入れるか…そういえば、同期の開発がなんかやってたな。」

 

開発の同期に電話

 

担当「お前のところでなんかメタバース関連開発してなかった?」

開発「あーメタバースというよりはVR関連だね。どうした?ん?経営者が聞いてきてる?こないだの社内技術内覧会にあの人たち来てて俺、直接プレゼンもしたのにな…聞いてなかったのかな…」

担当「取締役会とかで多忙だからかな…」

 

開発「でも、その後、法務と広報から連絡があって法的な側面と倫理面、それと会社の広報戦略上、まずはちょっと経営戦略で揉みたいって話があって」

担当「えー、その話は上には上がってるんだよね」

開発「そのはずだよ。部長にはその後の進捗は聞いてみるけどさ」

担当「了解、ありがとう」

 

担当「というわけで2025-2030年にかけてメタバースは成長する分野でして我が社の製品はこれとこれ、あと、開発部ではこういう製品を鋭意開発中とのことです。ロードマップはこちらになります」

課長「おー、ありがとう、ここのフォントをこのサイズに変えて色づかいとかもっと気にして今日中に出して」

 

課長「部長、このように市場は右肩上がりです!」

部長「おー、よくわかった。でも、資料が、長いな…俺のパート、部長会でも5分しかないからスライド1枚にまとめ直して、right now」

課長「ぎょ、御意ー」

 

部長「というわけで、右肩上がりのメタバース市場に対して我が社も新製品で売り込みをかけていければと思っております」

部門長「ふむふむ」

経営戦略部「その件ですが、新製品は倫理面で課題あり、また、広報戦略や全社戦略も絡むので、まずは他社とアライアンスを組んでからやりたいです」
「」

 

経営戦略「来年のこの辺りで株価対策も考慮した上でアライアンスを発表できればと思いますがいかがでしょうか。」

経営者「ヨシ」

 

経営者「我が社のメタバース戦略はこう進めたいと思います。リスクはこのように勘案しております」

社外取「ロシアリスクとかはどうなるの?」

経営者「調べます」

 

経営者「ロシア、ウクライナリスクがメタバース戦略「」に与える影響を早急に調べて、right now」

部門長「御意ー!」

以下同

 

経営者「そういえば、この中でOculus被ったことあるやついるか?」

部門長「シーン…」

経営者「俺はこないだ、CESで試したぞ、誰も被ってないなんてダメだろ、今すぐ試せ」

部門長「御意ー!」

 

部門長「あー、予算でOculus買っておいてー」

部長「ん?遊ぶんですか?」

部門長「分解するんだよ!じゃないと経費で落とせないだろ!」

部長「御意ー!」

 

部長「おい、予算でOculus買えるか?」

課長「買えますけど分解するなら分解レポート買えば良いのでは?」

部長「そうだな、そうしてくれ」

 

課長「おい、予算でOculusの分解レポート買っておいてくれ」

担当「でも、課長、そんな今さら分解レポ買わなくても開発部で分解してましたよ」

課長「おー、そうか、じゃあ、そのレポートこっちに送っておいてくれ」

 

課長「部長、分解レポートです!すでにうちの開発が分解してました!」

部長「お、おう…」

 

部長「部門長、弊社での分解レポです。」

部門長「え?Oculusではなくて?」

部長「はい、既に開発部が分解してたみたいで…」

部門長「そうか、わかった、まあ、なんとかなるだろ…」

 

経営者「で、きみたち、ちゃんとOculusはためしたかな?」

部門長「シーン…あ、社長!そういえば、この件なんですが、至急社長に判断いただきたく…!急ぎの件をアジェンダに入れ忘れておりました!」

 

もしも、ろくに事前に開発してなくて、担当がポンコツの場合、担当が指示を受け取った際に手取り足取りやり方や意義を説明する羽目になる。

課長「あー、メタバースに関してまとめて欲しいのだけど、時間あるかな?」

担当「先日仰せつかった件をまだまとめてまして、時間がありません。」

課長「」

 

課長「あーでも、これは部長の指示で明日までには資料出さないといけなくて、今動けるのは君とおれだけで、君にお願いしていた件は明後日納期だから、先にこっちの部長指示の方を優先順位上げて対応してもらってもいいかな?」
担当「は?昨日はこっちの方が優先って言ってたじゃないですか」

 

課長「今説明したけど、部長指示で優先順位はこちらが上だからこちらから対応してもらえるかな?」

担当「えー、納得できません。ご命令なら仕方が無いですけど。大体、メタバースに関してまとめて、と言われてもどのようにまとめればいいかわからないので、どう纏めればいいか指示頂けますか?」

 

 

課長「資料のまとめ方はこれまでの案件と同じ形でお願いできるかな?表紙の後に市場の規模感がわかるグラフ、その次に取り組んでる案件のページ、その後に開発部がやってる案件のページ。写真か図があるとわかりやすくていいね。」

担当「えーと、フォントはどうしたいですか?文字サイズは?」

 

課長「フォントも文字サイズも部内での標準フォントを使って。社内規定はここのURLにあるから読んでください。」

担当「わかりました。ですが、私は納得してませんからね、優先順位は昨日の案件の方が高いと私は思うので」

課長「ごめんね、忙しいのに急ぎの話でさ。」

 

担当「できました」

課長「あれ、開発部のページに何も無いけど」

担当「課長、私、開発部とやりとりしたことがなく、どうやりとりすれば良いかわかりませんでした。」

課長「なら、それはそうと先に言って欲しかったんだけどな…」

担当「課長もお忙しそうでしたので」

 

課長「あと、図も写真も無いけど」

担当「ちょうど良いものが見つかりませんでしたので割愛しました。」

課長「そ、そうなのね…あと、グラフも年数が全然足りなくない?もう少し先の年まで知りたいと思うんだけど」

担当「ご指示にありませんでしたので」

課長「つ、次からは気にしてね…」

 

担当「課長、大体、そういう全体像も細かいところもしっかりご指示頂けないと私には課長や部長がどういうものが必要かわかりませんのできちんと確認してから指示いただけますか?」

課長「そ、それもその通りだね。つ、次からは気をつけるよ…」

 

課長「結局、俺が全部修正するのか…これなら俺が最初からやった方がカンパケも早かったな…今日も残業代は出ない残業か…」

人事「課長、あなたの残業が働き方改革の全社方針に違反してます。ログインは20時以降は控えてください」

課長「いつやればいいのよ…」

 

課長「ふう、なんとか朝早く起きて資料が仕上がった…部長、こちらでお願いします、メール送信っと」

部長「課長、今朝の件だが、ロシアリスクが与えるメタバース戦略の件、取締役会で説明しなくてはならんから明日までにまとめて」

課長「ぎょ、御意…」

 

課長「あー、この質問になると、もう新しい話すぎて調査会社の資料が使えないな…
担当には昨日延期させた仕事あるし、また絡まれたくないから俺が日経の記事とNPの記事をうまくキメラ合成させて経済への影響度合いを図示化するか…」

 

人事「課長さん、あなたの部下への言動がパワハラではないか、という投書が来ました」

課長「え!?何がどうなってそうなったのでしょうか…」

人事「いけませんね。最近の若者に対しては言葉にくれぐれも気を付けて接するようにeラーニングでは研修を受けていましたよね?」

課長「は、はい…」

 

 

解説

 この上記のやり取りはJTCを想定して書いてみましたが、どうしてこういうネタを書いたのかというと、以下です。

 日本はすぐに箱とか規制とか団体作ってルールメイキングから始める傾向にあります。

一方で、良い悪いには別にして、アメリカは先に実例作ってルールメイキングはその後に問題が起きてからということです。Uberが良い例で先に企業で実験を始めてその後に規制当局と対決したり調整したりしていました。

 実際、どんなこともまずは始めてみて、大きな世界観で投資とか人材とか投入しないと何も新しいことは生まれようがないわけですが、大きな世界観を描く能力が経営者にあるか?と。

 例えば、マーク・ザッカーバーグは自分でもメタバースを試しながら技術も理解しながら投資額を決めてる。この分野のエンジニアを何人集めないと何年でここまでいけない、というのを肌感覚で理解してるしそれをエイヤーでスタートしていくだけの資金があるわけです。
日本の経営者はどうでしょうか?実際にそうなのでしょうか。ザッカーバーグの場合も勿論部下がいて大半の作業はDirectorやVPなどがいてその部下がやると思うが、目的や作業はかなり明確になった形で指示が落ちると思われます。

 米国の大企業はCVCやってたり、CEO自身が出資してたりするので先端の投資マネーの動きからも今後の開発の動向とか人材の動きが見えてる。Linkedin採用で他社の採用動向や年収動向もリニアにわかる。退職金という考え方がなく日本のような解雇規制も無いので労働者もあっさり辞めるし辞めさせられる。

 何でもかんでも米国流が良いわけでは無いが日本企業で成功してる会社は創業者企業だったり長期政権経営者だったりするのでやはり物事を決める時の考え方や発想法でcapが付いてる感じはある。

 

社外取締役の問題

 社外取締役メタバースに関してロシアリスクについて聞いてくるというのはノンフィクション感が出てますが、予算組んだりしてた人たちは「わかるわー」となった場面ではなかろうか。ロシアリスクがメタバースに与えるリスクなんてすぐに出てくるわけないじゃんね。それがわかったら、サラリーマンなんかしてないよ。そんなもんはわかりませんよ、あなた、わかるんですか?そもそも社外取締役はガバナンスを強化するためにアメリカの経営体制を手本にして取り入れられてきたものだが、実態としてはアリバイ的に雇われる人が多くて学者先生とか他業種で取締役実績があるとか経営者のお友達から選抜されてることが多い。社外取締役は取締役会に外部の視点を担保しながらある一定の透明性を高めつつ、経営陣に経営面でのアドバイスをするのが本来の役割なのだが、結果的にはなんだか経営を監査してる人たちみたいになっていて経営面での効果的なアドバイスが出来てないと言うことが多いのではなかろうか。ガバナンスを強化するというのは分かるのだが、きちんと経営者に効果的にアドバイスを出来てるのか?報酬的にちゃんと期待されてる以上の仕事を出来てるのか?と言うところは多くの社外取締役には胸に手を当てて考えてほしいところである。あなたも「コスト」なんだからさ。

 

■開発はアンダーザテーブルか、それとも

 あと、開発部が先行して開発してたりするのは日本企業では「よくあること」な訳ですが、開発部が何か経営者から指示を受けて開発してたりするわけではないというのも日本企業…R&Dが自由すぎるわけです。めちゃくちゃ儲かっている時代の日本ではお金が余っていたので「アンダーザテーブル」なんてものが通用したわけです。ソニーの話が有名ですが、それはめちゃくちゃ儲かる金のなる木がたくさん生えていて円安で海外に対して競争力が人材面でもリソース面でもパワフルだった時代の遺物だったと言えると思います。

 

■日経で読みました、の功罪

経営者が方向を指し示せない理由のひとつ。日経に書かれてないことはまだまだ先の話みたいに捉える節がある。日経の責任はとても重い。R&Dがどうしてその案件に着目したのか?と言うところの大元のところがどうもマーケティングから始まらないのが日本企業というか。
日本企業にはあんまりマーケティング部署が無いってのもこの問題を加速させてると言えます。

 

■理想的な日本企業

理想的な日本企業は例えばこんな感じだと思います。

経営者「メタバース, 俺はこの分野とこの分野で重要性が増してくると思ってる。(ここは様々な経営者の情報ソースに基づく思いでok) 数年前からVR関連で開発指示していたプロジェクトも進捗確認をしてきたが機が熟して来た。次の全社web MTGで俺が話すから。資料とムービーは素案の検討をしよう」

 が、実際のところ、自分で考え、大戦略を作り、率先して実践している日本企業の経営者はそれほどいないでしょう。ユニクロ日本電産ソフトバンクキーエンスダイキン工業、最近のソニーなどはこのあたりになってくるのでしょうか。(結果として時価総額ランキング上位の企業という話になる。)

 日本企業の問題点は色々あります。統制が取れてない。戦略を考える部署が無い。戦略を経営者が真剣に考えてない。優先順位が無い。経営者やミドルマネジメントが戦略を元に戦術レベルへの落とし込みまで考察しない。なんなら「個々人の思い」みたいな抽象的な世界観で動いてる。コンセプチュアルスキルを向上させようとする場を持つ機会もあまりなかったりもする。ビジネススクールに通う人もそこまで多くないし、昔ほど海外留学に行く人も減っている。アッパーマネジメントになってくるとその場をうまく乗り切ることばかり考えて仕組みを変えようと提言する人は非常に少ない。何かを変える時は組織名と組織構成員だけいじる。でも、中身は殆ど現場任せにする。日頃から頭から火が吹くほど考えてないので何か新しいことをやる時も失敗した時のリスクばかり考えて物事を小さくまとまった形でしか考えない。
人が動けるレベルまで考えて落とし込むのは経営者やアッパーマネジメントの仕事であるべきだが。

 面白いのは中小のトップの中にはこのダイレクションを示すことができる人も結構多い。しかし、スケールアップしようとするとなかなか難しい壁にぶちあたる。地方の中小とスタートアップの差は何かな?と思ったのだが、目標設定やインセンティブ設定なんだろなと。

 そもそも会社をデカくしたいと思ってる人とそうでない人がいたりするんだなあと。

最近、知り合いで東京都市部の大手企業から地方の中小に転職した方のお話を聞いてて「担当者レベルにこれをしたい、会社を成長させたいという意思を持っている人が殆どいなくてなんでもかんでも社長決定になってる」という話でした。個人的にはそれはそれでアリなのでは、とも感じました。社長がどういうことに時間を使ってるか、スケールアップできる業態なのか?というのはあるかもしれません。コア技術を横展開したり、類似の業態の会社を買収したりして会社規模をデカくさせたいという欲求が地方の中小だとあんまり無いみたいなところももあるかもしれません。ストックオプションなど成功や成長に対するインセンティブがなければ誰も頑張らないというのもあるでしょう。スタート時点からひたすら成長を追い求めざるを得ないスタートアップとはそこが違う。

 スタートアップは投資家マネーからスタートするので市場や製品を大きく捉えなければならない。(大きく捉えてTAMを考える) 中小企業は既にある売上を基礎として考えるからそこからなかなか伸ばそうという気が起こらない人が多いと言うことだろうか。立て付けの違い。サイズ感としては中小企業とスタートアップは似通ってるのだが、成長希求してる度合いは全く異なるということになる。自然、スタートアップは都市部で立ち上げて成長したがってる若者を取り込んでいくことになる。

 中途半端なJTCよりもスタートアップであるとか、中小企業でも勢いのある企業に入る方がキャリア戦略上は効果が高いのではないか、と最近思うのでした。