The Power Law 上巻

The Power Law 上巻

この本はVC(ベンチャーキャピタル)に関して詳しく歴史的経緯を記載した非常に示唆に富む書籍です。

電子書籍で読了。

よく聴いているポッドキャスト、repeat rhyme で熱烈におすすめされている本でした。原書しか無かったのですが、2023年の9月に翻訳版が 出版され、電子版を買いました。なかなか読了するまでに時間を要してしまいました。

上巻ではシリコンバレーと呼ばれる地域がそのように呼ばれるようになった経緯の背景、即ち、VCの発祥からGoogleの上場に至る経緯までが描かれます。

元上司が駐在時に言っていましたが、「シリコンバレーで最も重要な構成要素は設計(技術)と投資である」という話を今一度思い出すような書籍でした。

Power lawというのは「べき乗則」のことですが、まさに指数関数的に成長していく技術、そしてそれを展開し成長していく企業、そこに投資する投資家たちの話が様々なケースとして紹介されています。

日本にいると、なかなか馴染みの無い企業の初期の話などもあり、非常に面白く読めました。(GoogleやYahoo、IntelAmazonは個別に書籍も出ているわけなので…)

色んなケースに登場する投資家だったり、起業家たちの振る舞いや言動が興味深く、投資に対する姿勢も大変に参考になります。

それにしても、日本の典型的な製造業に勤めている自分一個人としてはなかなかに考えさせられる内容だなと思うわけです。

 

今、日本では1月から新NISAが始まり、書店ではNISA指南の本が多数出てたり、ウェブ記事でもたくさん投資に関する記事が出ています。このような記事では投資は自己責任、としつつも、投資に対する心理的ハードルを下げよう、という声掛けがなされています。日本では個人も企業もお金は貯蓄するのが一般的。しかし、恐ろしく低金利の時代が長らく続き銀行に預金していてもお金は増えない時代が長く続いています。一方で海外ではコロナ禍に資金がガバガバと市中に出回ったこともあり、インフレが続いてきたこともあり、インフレ抑制のために金利が上がりベンチャー投資環境としてはイマイチな状態になっています。(一方で、貯金に意味が出てくるわけですが)

日本でも貯蓄から投資へ、と言われ続けてきて、ようやくその兆しが見えてきたのかなとも思います。(会社でもESOP制度が導入され、株式をいくらか分配されたりもしています。10年ほど持株会にも入ってきたわけですが…)

新興企業に投資したり買収したりするCVCという仕組みも日本の製造業では増えてきていますが、必ずしもこうした仕組みが全ての企業に導入されているわけでもなく、製造業では、スタートアップ投資=リスク高いからやらない、よくわからないからまだやらない、と捉える向きも多いわけです。

一方で、研究開発投資などで新規市場分野に向けて技術獲得しようとしてたりする話を聞くと、これはもはや、自社内に新しいスタートアップを立ち上げるのとそう変わらない話をしていたりするわけです。

どちらが良いか悪いかというよりも、どちらもフェーズによってうまく戦略的に使い分けることが重要だなと感じる次第です。自社内で研究開発から始めると確実性はある一方で、時間は掛かるし、結局お金も掛かるし、ヒトも必要になるわけで。

 

面白いなと思うのは米国でも過去には投資に対して非常に慎重な人たちがいてそれは主に東海岸の伝統的な金融企業や事業会社の人たちだった、というところでしょうか。それに対するカウンターとして西海岸のVCや起業家たちが現れてくるわけです。投資に対する姿勢というか、リスクに対する姿勢の違いが明確で、それもまた面白いですね。

東海岸の伝統的な企業はいくら待っても投資してくれず、何回も何回もoh by the way〜と書類を要求された、という逸話が出てきます。このあたり、まるで日本の伝統的な大企業(JTC)と同じ振る舞いで、必ずしも、米国企業だからといって、みんながみんなリスクを取るというわけでもないということがわかります。

一方で、後半にエンジェル投資家の話が出てきますがこちらでは持分比率の話もせずにペラっと10万ドルの小切手をサラッと切る投資家の登場が描かれます。(7年駐在してて後半は殆ど小切手を使う機会も無かったわけですが…お金持ちになると、小切手で切る金額も桁違いですね。)

普通の人には大金でも、多くの上場によるexitで裕福になる人たちが生まれるシリコンバレーではエンジェル投資家になるような財を形成する人が相当数いる、ということなんでしょうね。数十億円とか資産があれば、そんなことも可能なんでしょうかね…。