JETRO主催「今後のイノベーションを考える」企画 第2回

JETRO主催「今後のイノベーションを考える」企画 第2回

 

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登壇者紹介 

宮田 拓弥氏 Founder and General Partner Scrum Ventures

早稲田大学大学院理工学研究科薄膜材料工学修了。卒業後、アメリカに渡り、EDS(Electronic Data Systems)に入社。ITコンサルティング企業を経て、生体認証のベンチャー企業を創業・売却。日本に戻り、2社目を起業。2009年ミクシィのアライアンス担当役員に就任し、その後mixi America CEO を務めた。現スクラムベンチャーズ創業者兼ジェネラルパートナー。TechCrunchなど国内外のメディア、イベントでの寄稿、講演など多数。Scrumu Venturesはサンフランシスコをベースに、米国のテックスタートアップへの投資を行うベンチャーキャピタル。これまでに、Mobility、Fintech、IoT、VR、コマース、ヘルスケアなど70社を超えるスタートアップに投資を実行している。

 

本間 毅氏 Founder and CEO HOMMA

1974年鳥取生まれ。中央大学在学中に起業。1997年にWebインテグレーションを行うイエルネット設立。ピーアイエム株式会社(後にヤフージャパンに売却)の設立にも関わる。2003年ソニー株式会社入社。ネット系事業戦略部門、リテール系新規事業開発等を経て、2008年5月よりアメリカ西海岸に赴任。電子書籍事業の事業戦略に従事。2012年2月楽天株式会社執行役員就任。退任後、シリコンバレーにてHOMMA, Inc.創業。

 

坪田 駆氏 SAPシリコンバレー Principal 

シリコンバレー最大のアウトサイダーとして4,000名の従業員を抱えるSAP Labsの一員として、日本企業との新規事業共創を推進するビジネスデベロップメントに従事。老舗IT企業がシリコンバレーのエコシステムを活用し、自己変革に成功した経験をもとに、年間3000名を超える日本企業のリーダーにデザイン思考を活用した事業変革を啓発する。日本最大級の新規事業リーダーコミュニティ「Business Innovators Network」ならびに次世代リーダーコミュニティ「Relay」主宰。スタートアップアクセラレーター「SAP iO」ベンチャーパートナー。経済産業省「始動 Next Innovator」プログラム シリコンバレーメンターなど。国際基督教大学にて国際関係学 学士を取得。日本オラクル、SAPジャパンにて製造業のグローバルカンパニーのデジタルトランスフォーメーションを支援する営業リーダーを務めたのち、2017年より現職。

 

坪田:前回(※第1回)は大企業がどういう新規事業をやっていくか、という話だった。

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 ただ、シリコンバレーには大企業側だけでなく、様々な会社がいる。そうした様々なシリコンバレーのプレイヤーにも着目していきたい。宮田さんは8年在米とのことで、起業家、VC、大企業視点でのご意見をお聞きしたい。また、本間さんはよくあるアメリカでの日本人向けサービスではなく、シリコンバレーの中で世界に向けての事業に挑戦されているので、スタートアップとしてどうシリコンバレーを見ているかお聞きしていきたい。オンラインウェビナーでは空気感づくりが難しいが、自分自身もわくわくしながら、楽しみながら話をしていきたい。今日の本題に入っていきたい。

 まず、コロナ影響がどういう影響を与えているか。そろそろ、影響も見えてきた。下記はCB Insightsの資料だが、スタートアップ投資の件数についてダメージが大きい。金額面ではそこまで下落していない?精査は進んでいるが、モメンタムは強くなっている?VCの宮田さんのご意見をお伺いしたい。

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宮田:1-3月の数字から見ると肌感覚としては合っている。VCはBiz構造的に特殊。VCは昨年お金が最大級に集まっているので2020年は投資しなくてはならない。しかし、コロナの影響から投資できるカテゴリが減っており、今、投資できるカテゴリに集まっている。例えばWFH(Work from Home)。Zoomが代表的な銘柄。Zoom For XXとかそういうものが盛り上がっている。メタバースというオンラインコンサートをやるところが資金調達したり、ノーションという最近のユニコーンだが、オンラインコラボツールが600億円から2000億円に一気に広がるラウンドで時価総額が4倍になり、一瞬で決まっているような状況。

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坪田:オンライン保険のレモネードやビッグデータ管理のスノーフレークなど大型IPOの発表が続いているが、峠は越えたか?

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宮田:そういう意味では2020年はTech業界の歴史に残る。ナスダックが1万ptを超えた。

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ネットバブルで5000ptを超えたのだが、今はその倍になっている。アメリカはDX(デジタルトランスフォーメーション)の恩恵を受けて、デジタル業界も伸び、IPOマーケットもひらいている。来年にかけてもコロナは収まっていないが、USは意外と盛り上がっている。

坪田:住宅市場だと、勝敗がはっきりしているが、コロナ影響はどうインパクトあるか

本間リーマンショックは家を買えない人にお金を貸し付けて焦げ付いたことがきっかけだった。今回は健康と経済の両面で危機。かなり早い段階で生き延びようとしている会社が多い。インバウンドや飲食は大変だが、家の中をどう未来にするか、という視点。家族全員がずーっとこんなに長い間、一日中、家の中にいるのは有史以来初めてだろう。住宅も重要だし、住宅の中も注目が集まっている。この領域は今後重要になっていくとみている。

坪田:お二人の考えもうかがっていきたい。起業家は楽観視しており、投資家は悲観的だが、実際、どう感じているか。

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宮田:VCとしては投資先も含めて、ランウェイ(収入が無い状態で何か月もつか、という指標)を考えると厳しい業界のスタートアップもたくさんある。ネガティブインパクトがある業界が8割くらいある。ランウェイを伸ばすために積極的なレイオフしているスタートアップもある。

坪田:投資をしてきてこの8年を通じた今回の仕事上の変化は何か?

宮田:オンラインでどれくらい仕事ができるか、というのはそもそもの信頼関係が最初からあると良いのだが、初対面からオンラインだと信頼関係を築き上げるのは本当に難しい。そういう意味では起業家は楽観的かもしれないが、投資家的にはシード投資などでは結構難しいのではないかと思う。継続受注はできるかもしれないが、新規営業はかなり難しいのでは?信頼醸成面でも。

坪田:Wetな関係よりも型を持っている営業が売れているというのはあるかもしれない。

本間:2月にコロナが来るのが分かったところでランウェイの確認・確保を行った。不要不急の支出を抑えて、ランウェイがはっきりしたので、少し気持ちは落ち着いた。いかにチャンスをつかむか、というのは大事。2月に日本に行って、今は日本滞在中。日本企業に対してアピールしながら資金調達を進めている。日本企業とのシナジー創出をする面では今はいい感じ。チームマネジメントという意味では、コロナ対策議論だとかストレス軽減を考えるのにも良い時間ではあった。もともといろんなエリアに散らばったリモート社員も多かったので、全員でフルリモート対応しながら、メンバーの結束は強まったと考えている。危機感はあるが、その危機感を何に変えるか?経営者として、この状況をどうプラスに変えていくかを考えて行動している。何も見えないから行動しないのが最もよくない。

坪田:自動車や家のシェアリングエコノミーなどが出てきていたが、コロナ影響で衛生面の心配をするところもあり、所有については陰りも懸念されていた。

本間:我々は所有する物件だけでなく賃貸物件も考えている。所有かシェアか、というのは実はどちらでも良い。ライフスタイルが重要だと考えている。コロナ前にライフスタイルを調査したが、リモートワークやオンライン学習はコロナ前から広がっていっていた。ワークスペースWi-fi拡充は既に取り組んでいた。コンタクトレスとか、靴箱とか、自動換気とか、空間やゆとりももともと、考えていた。これは元々Nice to haveだったのだが、コロナ後はNice to haveではなく、Essential、New Normalになっていた。所有・非所有というよりもライフスタイルの問題だと考えている。仕事、教育、食事などはこれまでは外出前提だったが、これからはオンラインでできる、という面でも住環境は極めて重要と考えている。

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宮田:With コロナ、ポストコロナの2段階ある。いかに家をリッチにするか、というのが新しくなってきている。WFHは日本ではみんな狭小住宅でつらそう。先日、発表があったが、日本で言えば、あの日立製作所でさえもリモートワークを推進し始めている。自宅にリソースやお金が向かっていくと思っている。外に出かけるのが、家にものがやってくる、という時代になっていく。たとえば、あのZaraでさえも300店舗閉店。銀座4丁目がこれまでは目抜き通りだったがその価値が無くなる時代が来る。

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宮田:また、ライフスタイルに着目すると、オンライン化が進む。下のスライドを見てほしい。ECはまだ15%だが、これが今後どんどん広がり、映画などもNetflixなどが広がっていく。ただ、人間は出かけたいという気持ちは抑えられないだろう。食事もやはり外で食べるのも楽しい。体験の共有などは今後も確実に残っていくだろう。

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本間:家の役割の変化を考えると、これまでは寝に帰るシェルターだったのが、コロナ後の今後は家でその場でどんどん様々なことが起こる。エンタメ、教育、仕事などなど。ライフスタイルが変わってきている。アメリカの家がいきなり売れなくなったという話でもない。VRで内見したりして購入というのも進んでいる。家の中の環境を良くしないと幸せになれないという話が出てきている。家の中でのライフスタイルを作っていく上では日本企業と取り組んでいっている。日本企業にも強みはある。シリコンバレーですべてが起きているわけではないが、シリコンバレーの役割は大きい。シリコンバレーで行われていることを参考にしていくことは重要。当事者として傘下していくことも意味があるだろう。このチャンスをどう考えていくか

坪田:Yコンビネーターを立ち上げたポール・グレアムは「危機はチャンスだ」と言っていた。どうチャンスに変えていこうとしているか。

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本間リーマンショックの後とか.comバブルで新しいプレイヤーが出てきた。既存勢力が力を失うのが危機。スタートアップは図体が小さいので新規Bizを作っていくことでNext Big Thingを作っていく。GAFAが来たらどうするかと言えばはっきり言ってどうしようもないが、大企業が出来ないことを素早くやる、というところで価値を作る。危機の後に大きくなるスタートアップが多いのはサバイバル能力という観点もある。誰もが未来を見いだせないときに未来に向かっていく。AirBnBが創業期に食べるシリアルを売って生き延びたという話もある。ピボットでもなんでもしていき、その波に乗ってチャンスを作ることが重要。

logmi.jp

 

坪田:今回コロナ影響でどういうスタートアップに着目しているか。

宮田:具体的にどういうスタートアップに注目しているかというと、コロナによる変化は不可逆の変化と予測している。今後、満員電車に乗って仕事に行きたいかというとNoだろう。ライフスタイルの将来、仕事や建物、食事なども変わっている。9.11の後に空港のセキュリティはかなり大変になったがその前は非常に気軽に空港の中に入れた。9.11を境に不可逆的な変化が起きた。ウイルス対策もコロナが解決したとしても、一過性の問題ではない。With コロナの間に生き方働き方も変わっていくとみている。

 

坪田:今日の参加者には大企業が多い。大企業に所属している人たちにメッセージはあるか。

宮田:コロナ影響下でアンケートを取ると、9割の人たちがオープンイノベーションはスローダウンだと日本企業は答えたがUSではそうではない。危機こそチャンスと思ってほしい。でなければ高値掴みで終わってしまう。期せずしてDXの兆しもある。大企業や役人とも10分程度でもテレカンができるというのは貴重。このDXの流れを止めずに、無理やり昔のパラダイムに戻らずに仕事をしていってほしい。

 

坪田:現場担当者へのアドバイスは。

宮田:経営層と仕事をする。現場が頑張っても経営層がわかっていないとうまくいかない。Cクラスがオープンイノベーションをやっている会社がアメリカの会社でもうまくいっている。オープンイノベーションが少ないとか担当しかいないなんていうのはまずうまくいかない。SAPみたいに経営陣がオープンイノベーションマインドを持っているのが重要。社長を口説くというのが大事だろう。

 

坪田:日本の大企業についてどう考えるか。

本間:資金調達で大企業を見ている中では2極化していく。トップがWFHするところもあれば、黒塗りの高級車で出勤しているような経営者がいるところも未だに多い。WFHで対応している会社のほうが生産的でチャンスをつかめるだろう。シリコンバレーで言えば、VCの財布は硬くなっているのでバリエーションも極めてリーズナブルだろう。投資はほかが引いていくときに攻めたほうがよいのではイノベーション部門が1人だけとかだったら本当にヤバイ。経営層を口説くしかない。言われたことやっているだけでは絶対に結果は出ない。シリコンバレーの肌感覚をつかむのは、コロナの今は難しい。シリコンバレー駐在者にも情報発信やできることは今でもできるはず。

坪田:今のこの環境でどうトップを変えるか、現場へのエールはあるか。

宮田:経営陣よりも若い人たちに申し上げることとしては、、デジタルテックは変化が早い。例えば、TikTokを見て「これが次に来る」と思えるか?私には思えなかった。10-20代にしかわからないことがある。世界でみると若い世代はアメリカでも中国でもカルチャーを作っている。50-60代にはわからないことがある。コロナの中、「実はリモートでもいけるし、会社行かなくていいんじゃね?」と思ったならその感覚はたぶん正しい。本間さんなんて結構いい年なのに強烈な挑戦をしている。日本人同士で合わせていくのではなくて、デジタル周りのチャンスをどんどん作ってトライしていく時代だと思う。

本間:家作る仕事と家の中のデジタル技術は全く違う仕事。これを合わせるのはパワーが必要。大変だけど、やる。できて5-10年の会社が業界史を塗り替えていくようなことをやっていきたい。日本とアメリカのブリッジになって、日本で培われた技術やテックをアメリカに持ってきたりもしたい。ハイテクだとか企業の大小は関係なく、ライフスタイルを変えていきたいし、投資も進めていきたい。

 

(質疑応答コーナー)

Q1.エコシステムで何が起きているか。コロナが与える影響→宮田氏に聞きたい

宮田:私はアーリーステージの投資家。アーリーステージはそもそも資金調達が難しくなっている。初めての資金調達、実績も無いときにどう投資家がリスクを取るか。2020年にIPOを考えていた会社やバーンレートが高いレイターステージはレイオフでランウェイを伸ばしている。

 

Q2. オンラインがリアルの信頼関係がベースというが、これまで展示会やイベントでキーパーソンに会えていけたが今後どうしていけばいいか。オンラインMTGだけでディールは成立させられるのか。

 

宮田アメリカと日本の商習慣の違いはあるだろう。電話1本で1億―2億円のものを買うというのは昔からあったし、アメリカでは慣れがあるだろう。でも、まさに今日もそうだが、JETRO主催で日本でもオンラインウェビナーで1000人も来る時代になった。日本人や日本企業には切り開いてほしい。Linkedinでいきなりメールとかそういうのも多い。新しいDealを作りたいときにはLinkedinなどは活用している。初対面でも相手に価値があると思えれば、Linkedinからも繋がっていけばいいのでは。

 

本間:出会いのきっかけを作るステージ、信頼関係構築ステージ、Dealのステージがある。人からの紹介でオンラインで会ったりして、仲が始まることもある。オンラインだけ、とかリアルだけ、とかそういう区切りは関係ない。Linkedinなども浸透しているし活用するのもいい、人の紹介もサポートになるだろう。

 

Q3. 日系企業でも大手は北米進出している。日本だと過当競争で疲弊している。競合間でUSでJVしたり、提携したりとかそんな動きある?

宮田:昔で言う競合は無い。テスラも自動車の会社なのか、ソフトの会社なのか、乗ってみるとわからない。昔で言う競合は今では存在しない。

本間:競合か否かというのは観点が古い。部分部分で競合かどうかなどは時代遅れで、どういう分野で組めるか、ということを考えるのが求められるクリエイティビティだろう。

坪田:SAPと競合するスタートアップもある。多少失うものがあっても、SAPがタッチできる市場が増えるのであればプラスと考えてエコシステムを広げていこうとしている。スタートアップと組むにはやはり機動力も重要。スタートアップのほうが速いのでSAPを広げてくれる面もあるだろう。

 

Q4. アメリカのスタートアップが上位か下位か。

本間:そういうものは無い。どういうコラボや関係を構築したいか。一面的に考えてはいけない。コラボの仕方にも色々ある。やりたいことを明確にしてストーリを考えるべきだろう。