変わるものと変わらないもの。

私の出身母校である某高校の校舎が解体され、新しい校舎に建て替えられることになると年末に聞きました。昭和36年に建てられた校舎だったそうで、改築やら増築やら耐震工事やらを行って来たものの、遂に建て替えられることになったのだそう。
昭和36年と言うと、かれこれ、50年以上が経過しているわけですが、今回の催しは卒業生にとっては、感慨深いものがあったのでしょう。多くの卒業生が高校三年間を過ごした学び舎との別れを惜しみ、最後に一目見ようと、高校に訪れていました。

古びた黒板と黒板消しに埃のたまったスピーカー、あのときと変わらない机に椅子に薄い磨りガラス状の窓、エメラルド色に塗られて塗装の剥げた木の窓枠に西陽の射し込む教室。
教室から見える運動場には仮説校舎が建築中でした。昔あった古い体育館は更地になっており、ただ、バスケットゴールが置いてあるだけでした。ちょっとだけ、その場にあったバスケットボールを投げてみたら私のボールは綺麗にゴールに吸い込まれていきました。

12年ぶりにまともに足を踏み入れた校舎からは当時の学生たち、そして、今の高校生たちの息遣いが如実に感じられました。ああ、みんな、ここで高校三年間というかけがえのない素敵な時を過ごして、大人になっていったんだなあ、なんて。

私は高校時代は吹奏楽部に所属してホルンを吹き、学生指揮を担当し、コンサートの度に仮装して賑やかしの演出をしていました。吹奏楽部部員は事あるごとに、演奏するため、大抵の校内イベントではクラスの生徒とは別行動。それが、楽しくもあり、寂しくもありました。音楽室では何人ものOBさんとすれちがったし、今でも変わらずに吹奏楽部が活動していました。「アンサンブルコンテストまであと何日」、ってホワイトボードに書いてあって懐かしく思いました。
クラスは二年生からは文系の進学クラスで殆ど女子ばかりだったということもあり、また、男性陣がイケイケな感じではなかったことも手伝い、今でもクラス会が開かれそうな素ぶりはありません。高校のときの担任の先生が病気で若くして亡くなってしまった、と言うのも大きいのかもしれません。

校内を回っていると親戚にも会いました。母の姉とその息子の家族。母の姉は私のことをいつも心配してくれていて、私の大好きなおばさんです。おばさんもこの高校、従兄弟もその高校、親戚縁者はかなりこの高校に通っていて思い入れも強いことをひしひしと感じました。

卒業以来、会っていなかった人たちにも何人か会いました。声をかけていいのか、迷ってしまったり、そもそも名前を忘れてしまっていたり。Nくん、ごめんよ、三年間、塾も一緒だったのに名前を忘れてしまうなんて。

一緒に校舎を回った同級生といろんなモノの写真を写しながら、あれこれと話していました。お互いに老けたなあ、だなんて感じる瞬間もあったりして。あったかい缶コーヒーを買って、当時なけなしのお小遣いで紙パックの冷たいコーヒーを飲んでいたことを思い出しました。
当時は食堂にはパン屋が一ヶ月交代で販売に来ていていつもあっという間に売り切れになっていました。私のいた教室は食堂から一番近く、いつも授業が終わってからは全速力で廊下を駆け抜けていってました。今はパンの自販機が置いてありました。もう、食堂でパンは売っていないのかな。

時間の流れって、どうしてここまで残酷なんでしょう。いつまでも若いままで美しいままで、居させてくれればいいのに。あの頃の自分のままでいられればいいのに。時間はそれを許してはくれません。あの頃思い描いていた未来はどんどん迫ってきて、そして自分自身がその未来を通り越していきます。ここしばらくは、通り越していった未来に実感が湧かなくてピンときていないくらいです。瞬きをするくらいにあっという間の出来事のように感じていても、そこには卒業してから12年x365日x24時間の年月の経過があります。
校舎は昔と同じように見えるのに、もう建て替えなくてはならないと言います。こんなにたくさんの卒業生が別れを惜しみに来ても、それは日々毎日続く日常からしたら、ほんの一瞬のこと。悲しんでも、寂しくても、受け入れていかなくてはいけないことなのでしょう。名残はいつまでも尽きませんでしたが、その名残りを振り切るようにシャッターを押し続けました。
その写真を当日、来られなかった仲間たちに見てもらったらとても懐かしんでくれました。10年を越えても昔と変わらず変わらないものがあるとするのであれば、それはこの仲間たちとの関係なのかもしれません。
私はきっとこれからも変わり続けるだろうし、それはこの高校もまた同じなのだと思います。でも、私がこの高校でかけがえのない仲間たちと過ごしたあの時間だけはきっといつまでも変わらないのだろうな、と今はそう思えます。

ありがとう、素敵な思い出を最後にくれて。工事には二年かかるそうですが、新しくなった校舎にも行ってみたいと思います。