SAPシリコンバレーオフィス訪問メモ(2016年10月の記事の再掲)

(過去2016年10月頃に本BlogにUpしていた記事ですが、諸事情により掲載を取り下げていました。)

 

 貴重な機会をいただいてシリコンバレーSAPオフィスへお邪魔してきました。

今回はSAPシリコンバレーオフィスでは唯一の日本人の方(2016年当時)にオフィスをご案内いただき、また、SAPのデザイン思考「Design Thinking」への取り組みを聞かせていただくことが出来ました。
 お邪魔させていただいた感想としましては会社の事業として見て、大きなターンアラウンドを経験していることに非常に感銘を受けました。事前にデザイン思考という言葉は聞いたことがありましたが、それがどういうものかはいまいちわかっていませんでした。

SAPという会社
SAPという会社自体は
 ・7.7万人の従業員
 ・そのうち、1.8万人はR&D担当
 ・ドイツ、Palo Alto、インドバンガロールのR&Dが特に大きいとのこと
 ・時価総額は11兆円
 ・44年の歴史
 ・クラウドユーザー数7000万人

■オープンイノベーションセンターとSAP
 最近、シリコンバレーに限らず、様々なメーカーが東京や自社R&Dセンターの近くにオープンイノベーションセンターを作ったりして他社や産官学の緩やかな協業関係を築こうとする傾向にある、と思っていたのですが、それに通ずるような非常に興味深い説明SAPでもしていただけました。

 話は逸れますが、富士フイルムさんがオープンイノベーションハブを日本だけではなく、シリコンバレーに立ち上げられており、半年ほど前にお邪魔させていただきましたが、富士フイルムの業態転換について興味深い説明をたくさん伺うことが出来ましたし、その展示内容の緻密さ、事業経営の危機とそれを克服した話には非常に感銘を受けました。

 富士フイルムさんは日本、北米欧州と3か所にオープンイノベーションハブを構えています。最近ですと、パナソニック日東電工、その他大手メーカーが相次いでこういったラボをオープンさせています。
 

SAPもまた、富士フイルムさんと同様にERPという在庫管理システムだけではじり貧、と感じていたところにデザイン思考によるコンサル→Hanaなどのクラウド製品の提案、という大きな業態追加・転換を果たしたというのです。

 実際、2010年から2015年にかけて、ERP事業は微増だったそうですが、1兆円近くの売上が2.6兆円もの売り上げになっており、その成長の原動力はデザイン思考とクラウドのHanaだというのです。

 たったの数年で売上が倍化するというのはちょっと普通のことではありません。また、金額も非常に大きく、300億円が600億円になるのとはわけが違います。

SAPシリコンバレーオフィスについて
 SAPシリコンバレーオフィスは世界に何拠点かあるR&D拠点の一つとのことでして、4000人もの方が働いているそうです。

 勤務している人種としてはやはり場所柄、インド人や中国人が多いとのこと。

 オフィスはPalo Altoのスタンフォード大学の比較的近くにあり、道を挟んだ向かいにはあの電気自動車メーカーのテスラ・モーターズのR&Dセンターもあります。

 過去、SAPのオフィスはスティーブ・ジョブズが立ち上げた「Next」という会社があったところだそうです。

 2004年に会社のトップがデザイン思考のことを飛行機の中で読んだ雑誌で知って、飛行機を降りてすぐにIDEOに電話してデザイン思考を取りいれるべく、動いた、ということですが、それから10年ですっかり、従業員に浸透している、とのことでした。
 最近はよく日本企業SAPシリコンバレーオフィスを見学に来ることも多く、日本からは官僚なども来ているとのことでした。3か月で60社ほどが来たそうですが、そのうち2割は経営者だったとのことです。シリコンバレーでの海外企業としては最大級の人数だと言います。
 オフィスを歩いてみると、殆ど全ての壁がホワイトボードになっており、様々な場所にPost itが貼り付けてあり、議論をしたり、ファシリテーションがなされている様子が強く伝わってきました。

 また、空間もわざと空白を増やしてあるそうで、それがまた様々なアイデアを早期させる工夫になっていると言います。カフェまでアイデアを出し合いながら運営されているとのことで、カフェにもまた様々なポストイットが貼られており、壁面でビジュアルに議論されたり意見集約されたりしていました。

SAPの取組み
 SAPはそのほかにも韓国で企業支援施設Apphausというものを立ち上げたり、Superbowlの際にはサンフランシスコにFan Energy Zoneという場所を展開していたり、医療関係ではガンの分析だとか、スポーツの分野ではサッカードイツ代表との取組みなども行っているそうです。

 また、Palo AltoにあるHanahausというコワーキングスペースがあるのですが、そこもSAPの取組みの一環とのことでした。(ブルーボトルコーヒーがあるので何度も行っていましたが、SAPが取り組んで作られた場所ということは知りませんでした)
また、直近ではSAPアップルとも提携しましたが、これもまた、iPadアプリだけでなく、Hanaをベースにしたアプリに取り組み、B to CからB to Bを徹底的にやる、とのことでした。
 
■スポーツとSAP
 特にスポーツにおける取組みでは今治FC岡田監督の取組みも非常に興味深いものでした。サッカーSAP?と思いましたが、今ではサッカースタジアムで動く選手の様々な動き、行動をデータ分析しているそうです。

 2006年W杯ドイツは開催国であるにも関わらず優勝できなかったことを深く反省してデータ分析をサッカーに徹底的に取り入れることにしたそうですが、そこでSAPとの取組みも始まったそうです。

 野球は数字では管理しやすく、様々なアクションの殆ど全てが公式の記録として数字で管理できるけど、サッカーは得点とファウル、出場試合数くらいでしか見られなかった、と。


 私も知らなかったのですが、サッカーって通常、90分の試合時間のうち、45分は誰かがボールを保持しているけど、残りの45分って誰もボールを持っていないそうです。

 そこで、ドイツ代表は試合においてボールの支配率をとことん上げようと取り組んだ、とのことで、スタジアムにセンサーを付けて、1人あたりのボールの平均保持時間を計測したと言います。

 1試合400万件のデータが取れたと言いますが、その時、わかったのがそのボール保持時間が2.6秒と長かったそうで、もっと短くできる、と考えたそうです。

 ここにSAPのHanaによるビッグデータ解析が活用されているとのことでして、パス成功率をもっと上げるためにボールを持たずにポジショニング練習を徹底したことで1人あたりのボール保持時間を1秒以下にし、つまり、パスが通りやすくなり、結果的にチーム全体としてもボール保持時間が伸びたそうです。これがチームを勝利に導いていくというのです。
また、選手の日々の健康状態管理やケガのリスク管理製造業で言うところの設備保全と同じ観点で行っているそうです。

アンダーアーマーSAP
 スポーツブランドとしてアンダーアーマー米国を中心に急成長を遂げているブランドですが、その成功の背景にもアンダーアーマーITに強くなったことが挙げられるそうです。ここにもSAP提案が功を奏しているそうです。
アンダーアーマービッグデータ解析にアプリを通じて取り組んだり、(アプリ会社をいくつか買収したそうです)人々の健康データを測定・分析することでヘルスケアにも取り組もうとしていると言います。

 また、SAPの過去の取組みついては下記記事にも非常に詳しかったです。在庫や購買データ分析でもSAPを非常に活用しているとのことでした。

 面白いのはSAPジャパンはアシックスとも色々と取り組んでいるとのことで、競合するメーカーがお互いにSAPを活用して様々なことに取り組んで、競争しているというのがSAP提案力の強さを感じます。

■参考記事
アンダーアーマー育てた独SAPの「デザイン思考」 
シリコンバレー手法 世界が学ぶ
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO99834230Z10C16A4X13000/


■デザイン思考とは

f:id:kikidiary:20190725154053p:plain

 たとえば、SAPでは在庫過多もしくは在庫不足の問題で困っているお客さんに対して、在庫そのものではなく、お客様自身にフォーカスし、在庫だけでなく、そのお店に来るお客さんにも着目して、購買行動からどういうソリューションが提案できるかを考えるそうです。

 技術やBusinessそのものだけではく、ヒトに着目して提案をするといいます。

 問題を解決する、のではなく、問題を見つけることに注力するというのです。

 こういった提案をする際にデザイン思考を徹底して行うそうですが、SAPでは入社すると必ずこうしたデザイン思考を行う訓練を行うそうで、社員はみな、こういうデザイン思考を使ったファシリテーションが出来るそうです。

 つまり、デザイン思考が社員のフィロソフィーになっている、と言います。

 顧客とのワークショップを通じて、プロトタイプを率先してまずはやってみる、の精神で作ってみる、もしくはロールプレイをしてみることで、問題発見をしていく、と。

 面白かったのはSAPがいつも気を付けていることとして、「デザイン思考を使ったワークショップをやる場合、役員などの意思決定権者を相手にしなければやらない」、という点でした。これはなぜかと言えば、問題が発見できて、Solutionを提案する段階になって、ある程度、意思決定が出来る人でなければ、大きな会社では改善のための話が進まなくなるから、とのことでした。

「企業の成功に繋げるためには、やはりトップのコミットメントが必要」という話は企業には結局、階層があり当然ながら政治がある、ということもまたSAPも認めている、という現実的な視点が非常に面白かったです。(その場では質問しませんでしたが、「この問題をデザイン思考で解き明かせないものかなあ」、と思いました。}

 また、デザイン思考のワークショップをするときには同じ部署ばかりの人だけではなく、様々な部署の方と行い、「多様性」を重視すると言います。そうすることで様々な視点での多様性のある意見が出てくると言います。


 例えば、購買の人であれば購買の問題だと思うし、技術の人は技術の問題だと思う。「人によって、問題の本質は異なる」とのことで、考えてみれば当たり前の話なのですが、言われるとなるほどなあ、と納得しました。

 この「デザイン思考を使ったコンサルティング」そのものは無償とのことで、このコンサルティングから導き出されるソフトウェアのラインセンス費用が実際の収益につながるとのことでした。
イノベーションはCreativity(創造力) x Execution(実行力)である、と説明されていましたが、この創造力を怖がらずにできるようにさせるのがデザイン思考である、と説明されていました。
 また、3つのP、Process, People(人の多様性), Placeが大事だとのことで、場所については完成されたオフィスでは想像力、アイデアは湧きづらいそうです。

■訪問を通して
 私は営業職ですので、これまで、仕事を通して、こういったアプローチでのモノの考え方は学んでこなかったのですが、デザイン思考を通じて、社内にある問題を解決できるのであれば、非常に有用なのではないか?と感じました。

デザイン思考の概要を15分で学ぶページ
http://interactiondesign.jp/designthinking/


下記参考URLのうち、突撃!隣の開発環境にはたくさんのオフィスやラボの写真が載っていますので雰囲気を掴むのには参考になるかと思います。

参考URL
SAPシリコンバレー企業の買収を積極化 〜影響力衰退の打開策
http://usfl.com/news/23483

突撃!隣の開発環境 パート14【SAP Palo Alto Labs編】 in シリコンバレー
http://dev.classmethod.jp/etc/ux-design-env-sap-palo-alto-labs/

シリコンバレー企業が集結。今年のスーパーボウルITの実験場
https://newspicks.com/news/1383921/

岡田武史氏と考えるスポーツ・イノベーション
https://newspicks.com/news/739654/