2019/05/22_Canon USA原口氏による講演「シリコンバレーの「からくり」と日系企業のイノベーション活動」メモ

シリコンバレーの「からくり」と日系企業イノベーション活動

「どうして、なかなかシリコンバレーのことが伝わらないのか」

イノベーションをしたいなら、まずは社長の頭のイノベーションから必要」

 

■原口氏経歴

原口氏はキヤノンマーケティングジャパン半導体製造装置・露光機を担当してきたが2008年でCanon USAで勤務。2014年以降、Canon USA Innovation Hubで責任者

 

Canonについて

キヤノンは20万人くらい勤務しており、おおよそ4兆円の売上、利益は2500億円くらい。連結子会社は全部で379社。

 キヤノンの製品群 はOA機器コピー機、産業用プリンタ)は45%、カメラは25%、東芝メディカルの事業で11%、半導体露光装置は20%程度の販売比率。3年くらい前まではカメラと事務機器で売上だったがカメラは下がってきている

ここ5年間においてキヤノンはずーっと米国特許登録件数は3位くらいで年間3000-4000件。1位はIBM、2位は三星。お金をかけて特許をいっぱい取っているけど、あんまり新しい商品が出てきていないのが課題。

 

シリコンバレーについて

シリコンバレーは地図には載っていない。。。サンフランシスコからサンノゼにかけての50mile圏内くらいがシリコンバレーシリコンバレーの由来はシリコンから半導体が作られてきたことを由来とする。

この圏内にGoogle, FB, Apple, Intel, Teslaなどが集中するのには理由がある。それをわかってシリコンバレーで活動するからこそ意味がある。

 SVには最終的にProfit Marginが20%以上の会社がたくさんある。2018年でみてもApple, Alphabet, IntelFacebook, NVIDIA, Ebayなどが20%を超える。シスコやHP、テスラはそうでもないが。。。売上伸び率で言えば、テスラはYoYで83%の伸び率。こうした企業がSVばかりに生まれるのは決して偶然ではなく「からくり」がある。

 

 ■シリコンバレーのエコシステム

製品アイデア・事業企画⇒ビジネス開拓⇒販売拡大⇒IPO=上場 or M&A

資金提供、起業家育成、資金提供・経営参画、事業提携

Angel投資家・クラウドファンディング、インキュベータ、アクセラレータ、ベンチャーキャピタル、大企業、ピッチ、Meet up、アイデアソン、ハッカソン etc。失敗しても成功してもきちんと循環していく

 

シリコンバレーの特徴

スタートアップがいる中でVCが資金提供、大企業が新規事業模索、資金援助を検討。

VCは投資リターンを求めて投資元(LP)になる大企業と提携する。提携することでVCからシリコンバレーのインナーサークルの情報を提供してもらっている

事業サポートやB2BでBizをやりたい企業が集まってくるし、大学との共同開発なども出てくる

インキュベータ、アクセラレータは株と引き換えに事業ノウハウやメンターネットワークを提供している

人・情報・カネが正の循環で急速に拡大

 

世界を探せばシリコンバレーと似たようなところは他にもあるのではと言う人もいるが、シリコンバレーは実は「多様化」がすごい。実際、そこに住む半分の人たちは家庭では英語以外で会話している。

そういう意味ではシリコンバレーアメリカではない、世界の縮図。

 

平均住宅販売価格は全米で初めて100万ドルを超えている。

世帯収入 $139,755, 全米平均$68,000を支払わないと人が雇えない。

物価平均は全米の150%、賃貸は東京の1.7倍。

Ph. Dは15万ドルと言われていたが、Principle Scientistは20万ドルを超えるとも言われている

また、優秀な人材獲得競争が過熱している

世界から優秀な人材が家族と共に集まることで世界の文化・価値観が混在。

世界感覚が磨かれる。多様性を理解。シリコンバレーで生まれる製品・ビジネスは世界に広がる

世界感覚が欠如している多様性が無い日本はこの逆・・・。

 

■日本の電機メーカーの衰退理由

1980年代には日米半導体戦争があった。1990年には上位10社のうち、6社が日本企業だったが、2018年にはついに上位10社で0社。。。キヤノンが販売する半導体用mの装置は1億円を超えていたのだが、この装置を買うときは各社のトップとよく会話していたが、そこから色々見えてきた。日本メーカーは勝手に品質をどんどん上げるために開発費競争を続けてコストが上昇してしまった。コストを抑えて顧客要求品質の製品を安売りするマイクロンなどが台頭し、競争に勝てなかった。

過去、日本企業は品質の良さをお金に替えることが出来なかった。正しいニーズを捉えられず、高品質と過剰品質を大きく勘違いしてしまっていたキヤノンは今でもその傾向がある・・・。

世界感覚が欠如していた。世界に広がる製品やビジネスは生み出すことが出来なかった。地理的・歴史的背景から日本企業の根本的問題。世界標準仕様を生み出せなかった・・・。

過去は日本でしか作れなかったものが経済発展で各国でも作れるようになった

今はスマホなどの娯楽機器が広がっているが、この分野は日本企業は最も苦手・・・。日本人は仕事で楽しむことが苦手。

先人が頑張ったおかげで素材・材料では今でも日本企業は強いが、やがては世界で競争は激化していくだろう。

イノベーションの定石がシリコンバレーのダイナミズムの中で確立。(ex. Open innovation、デザイン思考、リーンスタートアップ、デザインスプリントなどなど・・・。

 

・Problem solution fit であなく、Product market fitにより事業を作り上げる

・共通するポイントは市場の共通要望に基づく開発

・時間の重みを常に意識する必要「時間の経過はリスクの増大」

 

Canon USA Innovation Hubに娯楽室を作って新規製品のテストマーケティングを実施して43家族ほどに参加してもらった。デザインスプリントを実施して、コーチングしてもらったが、非常に高い効果を感じた。

顧客視点で製品・サービスを短期間で作る開発手法を実験してみた

Canon本体は年間に開発費で3000億円も使っているが、Canonも新製品や新サービスが出てこない。これが問題。

 

シリコンバレーの活用法

ベンチャーキャピタルの活用。

スタートアップ情報のリアルタイムの入手、自社の活動内容を活発に発信

 

②世界の人材の活用(タレント活用)

Innovativeなアイデアの発掘、自社技術の発信、応用アイデアの受信、試作検証に最適な場所(異なる価値観を有するアーリーアダプターの存在)

 

③ インキュベータ・アクセラレータの活用

イノベーションのノウハウ、メンターの利用、SV流事業開発・手法による事業化、イノベーションの定石習得

  • 世界有数の大学活用

新技術、ビジネスモデルの共同開発、イノベーション活動の情報交換の場

  • リーディングカンパニーとの連携

SVの最先端企業との連携、ビジネスチャンス、最先端技術・ビジネス動向の把握

 

日本企業って本当はもっと横・横で連携すべき。似た価値観を持つ人たちともっと連携すればよい。

VCを通じて254件のスタートアップと会って7件くらいはまだ残っている

 

■日系イノベーションチームのシリコンバレーでの活動

たとえば、富士フイルムシリコンバレーでもとても発信が上手。イノベーションハブで協業先をちゃんと見つけようとしている自社の技術をしっかり棚卸している。いくら技術があっても全てをきちんと社員が把握している会社はあんまりいない。コア技術ではない技術は迷ったら発信して提携相手を探せばよい。迷ったら出せ!とCanon内部でも言っている。シリコンバレーに拠点を作ったり人を派遣しても何がしたいのか、はっきりしていない会社は多い。「シリコンバレーには何かあるはずだと言っている」経営者は多いし、シリコンバレー側に権限を与えているとか言う経営者も多いが実際にはそうでもない。シリコンバレーでは自分から発信していかなければ、何も生まれない。

 

■具体的なアプローチ

・持続的イノベーション

キヤノンはOceという産業用プリンターの会社を3000億円で買収。なぜか産業用プリンターは市場自体も拡大している。

・Cinema EOSで映画撮影用カメラ市場に新規参入。この分野ではナンバーワン

・セキュリティネットワークカメラのAxis、マイルストーンという会社も買収

東芝メディカルを買収し、医療機器市場に本格参入

 

・破壊的イノベーション

 ・デジタルカメラ銀塩カメラ市場を破壊

 ・スマホのカメラ機能によってコンデジ市場は破壊

 

イノベーションへの具体的アプローチ

・従来型R&D:事業化までの期間は長く、リスクは高く、投入資金も高く、事業・製品の最終完成形のイメージが無いまま技術開発。結果的に社内イノベーションに苦労。。。経費削減でも苦労する

 

CSE(Corporate Startup engagement):ベンチャーと一緒にやりながら事業開発する。事業化までの期間は中期、リスクも中程度、投入資金も中程度。明確な新たな価値、完成形のイメージと自社技術の融合を図れる。事業形態の主導を取れる

 

M&A:事業化までの期間は短く、リスクは低いが、投入資金は高い。M&A後のシナジー効果を出すことに苦労。。。キヤノンも突然、御手洗会長はガンガン会社を買い始めた。東芝メディカルは6500億円もしたが、一体何年回収に時間かかるのか・・・。お金があるうちは買いまくればいいが、買った後シナジーが出ない。企業文化も相当違うし、業務フローも相当違う。事業システムも融合がなかなかうまくいかない。。。

 

日系企業イノベーション推進活動の留意点

日系企業の経営スタイルがもたらすイノベーション抑制要素:足枷。。。

 合議制による経営判断で経営リスクの回避、多角的判断⇒既存事業とのカニバリ問題、情報準備に膨大な時間を費やす、時間が熟すまで判断せず(時間が経つことが判断材料になってしまっている)

過剰な時間:役員会議システムの足かせ、事業家審議システムの足かせ

 

 ブランド価値、重視主義、ブランド力は最大の資産⇒ブランドを傷つける可能性は絶対排除、100%完成で市場リリースを認可、多種多様なチェックシステムの増大。ブランドはそれ自体がお金なのでブランドに傷をつけることは極力やらない。品質管理システムが過剰に重装備。。。だからイノベーションが出来ない。これはリーンスタートアップの真逆のことをやっている。高品質を否定してないし、ルールも否定しない。

過剰な品質:品質管理ステムの足かせ、過剰なルール:社内監査システムの足かせ

一旦きめたことをなかなか外せないのが日本企業の弱み

 

独自技術・情報非公開による製品開発⇒差別化による競争力確保 自社開発にこだわり膨大な時間と経費が発生、本当に差別化が図れているのか。

 過剰なプライド:クローズド・イノベーションの足かせ

 

SVのスピード(投資判断)に追いつかず。優良案件を逃す。

トップがこのことを理解しないと結局イノベーションなんてできない。

スピードアップ:投資判断 投資案件ごとの決裁⇒粘度プロジェクト予算の決裁、投資金額の決裁者・決裁枠の見直し(1億円、5億円、10億円、20億円 etc)決済額ごとに決裁者を決めてそれを運用

 

スピードアップ:事業判断 合議制での決裁⇒CEO/COO/CTO直下に事業部とは独立したイノベーションチームを組織。トップ判断。

 

短期製品開発、ブランド対策: クローズド・イノベーション⇒自社技術棚卸、外部提案を利用すべき開示技術の整理、オープンイノベーションの推進、不足技術は外から集める、スタートアップ企業の活用(最終形のアイデアの獲得、自社ブランドを傷つけない)

 

■社長に伝えるべきこと・ここに書いてあることができないくらいならSV進出はやめた方がよい

1.シリコンバレー日系企業イノベーション活動に最適の場所・新しい価値を創造する人材が世界から集まっている。

2.SVは世界の縮図

3.最新情報を得る仕組み、情報交換をする場が他のどこよりも多く存在

4.不測の技術を補う企業が多く存在

5.イノベーションの定石が確立されており習得できる

 

イノベーション活動のための社内環境整備は必須

イノベーションを阻害する社内システムの認識と対応策

 

 

スタートアップは次の投資ラウンドへ進めるかどうか3か月ごとに判断される。

その間寝食を忘れて働く

では、キヤノンにとっての3か月はどうか?

あなたにとっての3か月はどういうものか?

 

(質疑応答)

Q.日本企業では他社事例を聞かれることが多いが原口さんはどうやって対応している?

A.スタンフォードの集まりやNEDOの集まりでの失敗・成功体験事例を集めた話をしている。

 たとえば、取り組み方として、コマツの富樫氏などは非常に広くそうした発信が出来ている。ホンダの杉本氏などスタートアップにテコ入れしながら日本側へ展開するという流れをうまく作り上げている

 

Q.シリコンバレーベンチャー側は早期投資は歓迎しない。。キヤノンNREやPOCなどをやっているか

A.お金が欲しいと言って来るところもあるし、事業の出口戦略の展開をヘルプ要請されたりもする

 日本企業も形が無い段階で投資出来るところはなかなかないと思う。キヤノンは一度買いたくなってしまうと無茶な投資をしてしまったりもするのが悩ましい。

 

Q.若い子にイノベーションに対するやる気を起こさせるにはどうすればよいか

A.キヤノンの事例で言えば、若い人がやる気が無いわけではない。発揮できる環境が整備されていないのが問題ではないか。「どうせやっても無駄」と思わせるような環境がダメ。日本人学生などでは「今の生活では困っていない」と言っている人が多いが、そういう若者には「今のあなたたちの幸福は先人の努力があって実現されたものだけど、それはいつまで続くと思う?」と問いかけてみたりして将来の話を考えてもらったりしている。

 

Q.シリコンバレーに赴任してきて何か新しいことをしなければいけないのだけど、日本サイドの人たちに面白いと思ってもらえるにはどうすればよいか。あと、「投資する人」は日本にいるべきか、米国にいるべきか?

A.会社として何をやりたいかスタンスをまず決めた方が良い。ピッチャー・キャッチャーでせっかく球を投げても誰も球を受けてくれないのはよくある話だと思う。会社でルールをきっちり決めた方がよい。何年でどういう形にすればよいかKPIを決めた方が良い。開発と事業創造は同じ話ではない。新しいBizを創造する人はSVの環境に触れるのは必ず価値があるし説得材料にはなるだろう。既存事業の延長でやるのか、新規事業を飛び地でやるのか、は最初にかっちり決めておかないと日本からお金を出すことはできないと言われて終わりだと思う。

 

Q.シリコンバレーから中国のイノベーションを見てみたり、比較したりとかいろんな活動をしている。拠点がグローバルで分かれているところで連携はしているか?

A.そこまで手が回っていないのが実情。中国市場などは急成長しているが、キヤノン的なイノベーションを中国でうみだせていないし、ヨーロッパでそこまで手が回っていない。シリコンバレーとは別にイスラエルなどでは連携はしている。