キャリア再考

 再び、仕事を一緒にしていた会社の先輩が8月末に日本の職場を去るという話を耳にしました。年齢的にもまだ40代半ばの方なので、おそらく転職なさると思うのですが、非常にいろいろ考えさせられるなあ、と思います。

 今年の3月にも職場を去ってしまった後輩について記事を書きましたが、私はそれこそたまたま、非常にラッキーなことにSan Joseに駐在することが出来ましたが、そうでなければ、ずっと日本にいたならば、一体どういう展開が自分に待っていたのかなあ、というのは言い出したらキリがないのですが、そう感じています。

 つくづく、「社内への情報発信」というアクションは大事なのだなあとは思う次第です。自分がこういう仕事をしたい、と思ったらそういう情報をどんどん発信して上司や周りにもそれとなく伝わるように動くことを心掛ける。海外に行きたいか?と上司や周囲の人に聞かれた時も迷いなく行きたいとは伝えてきました。

 あと、過去、「目立つ顧客」を担当しているほかの人のことをうらやむ気持ちはいつもあったのです。私は営業として社会人になって外勤営業を担当し始めて以降は、ずーっと新規案件を担当している人や目立つ案件を担当している人のことをうらやましく思っていたらなぜか、お鉢が回ってくる、という経験をしてきましたから、やりたい、という気持ちを持ち口に出すことは大事なのだと思います。そして、それを任せてみようと上司に思ってもらえるように日々の仕事に頑張る、と。職場を去っていく方々がそういうことをしていなかったという話ではないのですが、発信という意味ではあまり目にしたことが無かったので、気になった次第です。

 

 最近、同僚と話している中で「良い組織は何か」とか「イノベーションとは何か」とか面白いテーマをふとした瞬間に投げかけてもらえることがあります。

 

■良い組織

良い組織とは何か、という話の中で、個人的には心理的安全性の話が思い起こされました。心理的安全性がいかに重要か、ということでいろいろと以前からそういうことを調べたりもしました。心理的安全性がイノベーションにもつながる、という話も以前に見かけました。この記事は本当に面白かったので、たまたまこの私の記事を読んでいるすべての人に読んでほしい話だなと思っています。

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 心理的安全性をどうやって確保するのか、というのは企業文化・風土にも密接に結びつく話ですから、改革すること自体、それほど簡単な話ではないと思っていますが、割と簡単な心掛けで自分の周りからでも心理的安全性は確保して広げていけるとは思っています。単純に朝、職場の同僚に明るく挨拶する、目を見て声をかける、だなんて、精神論も実はそれだけで相手に良い影響を与えていたりもします。

 心理的安全性が確保された職場であれば何でも忌憚のない意見を言い合える、というのは確かに正論なのですが、心理的安全性を確保するのは一体だれなのか?という点を考えると実はそれは自分からきちんと隣の人の心理的安全性を確保するために必要なアクションや言動は何か?ということだったりもします。つまり他者への関心ということなのかな、とも思います。

 自分は実はこうした他者への関心が低く、また、ついつい、忙しい自分を守ろうとしてしまう自己防衛機制が強いのだなあ、と気が付くことがありました。ただ、心理的安全性は自分ひとりで頑張っても他者とのかかわりの中でも生まれてくるものなので、みんながみんなで意識することが重要なのかな、と思う次第であります。

 

 いかんせん、私自身の今の職場での役割はそれこそ、オペレーションをぐるぐる回してどれだけ既存のお客さんから既存案件や新規案件を受注できるか、という点に非常に強い力点が置かれているため、なかなかそうした新しい市場や顧客に注力する時間は取りづらいのですが、時に新しいことをやろうとしても意外とみんななかなかついてきてくれません。新規案件や新規顧客なんて無くても当座のご飯は食べていけるものだったりもします。私が担当している製品などでいえば、会社の売上の大半は大手顧客から来ているものであり、こまごまとしたお客さんから残りの2割をいただいている、という偏った状態だったりもします。あくまで一般的な話としても、大手顧客を担当している担当者が評価され、新規を開拓している人はあまり誰もサポートしてくれていなかったりもします。

 

 新規案件や顧客や市場、製品を担当している人たちは「あいつらは既存の客に行っているだけで大きな売上稼げて大きな顔していい気なもんだぜ」と思っていたりします。

 一方で、既存顧客を担当している人からすれば「新規やっている連中は全然利益も売上も稼ぎやしないわ。旅行ばかり行って、このごくつぶしめ!」と思っていたりもします。

 既存顧客を担当している担当者の間でも担当先の大小で評価が異なったりもします。大きな既存顧客を担当している担当者はいわば花形の職場にいるようなものです。私も今はたまたま巨大なお客さんを相手にしていますが、赴任前はそこまででもありませんでした。いや、当時は十分大きなお客さんと思っていましたが。 

 既存顧客や既存案件がなければ、もちろん会社の明日のご飯の種が無く、回りません。雪かきをしている人のことを社会の人は誰も気にしませんが、目立たないけど、きちんと利益を稼ぐ仕事をしている人のことを軽視するような職場ではあってはいけないと思います。リスペクトすることをStatementに掲げるべきなのだろうな、とすら思います。既存の大手顧客のサポートやフォローというのは非常に重要です。

 しかし、実はこの手の仕事はオペレーション的に回せるようにしてしまうのが正解だと思います。大手顧客は誰が担当してもきちんと売上と利益が出るように人材を育て、仕組みを作り、会社と会社の密接な関係を構築する。

 それができてしまえば、大手顧客をいつまでもベテランが担当し続ける必要はなくなります。ベテランは新しい顧客・案件をどんどん取りに行き市場を拡大していく、そしてそれをノウハウ化していき、引き継いでいくことが正しい中長期的な営業人材育成だと思っています。そして、新規顧客、プロジェクト、なんでもよいですが、たとえ小さな売上や利益額でも新しいことを始められたらそれはすごいことだと周知され、認めてあげる、評価される仕組みがあることが重要と思いました。社内でのアナウンスの仕方も重要と思います。PDCAをきちんとぐるぐる回してお金を稼いでいる人も新規案件を狩人のように狙いに行く人も評価はきちんとされて知られることが重要だと思います。つまり、お互いにお互いのことをリスペクトする、認めてあげるということかと思います。実は職場でのあいさつなんかもそうしたリスペクトする、という感情を伝える良い方法だと思います。

 そうしたきちんとした社内の仕組みや心がけ、風土が無いと、なかなか新規をやろうという人たちがいなくなってしまう。みんなが青い鳥を追いかけてしまうと、会社や組織は回りませんが、新しいことをやろうという人が現れなくなってしまいます。これも問題です。新しい市場や業界や製品分野というのは非常に面倒ですし、厄介ですし、「ゼロからイチ」を立ち上げるというのは非常に難しいものです。オペレーション的な仕事の向き合い方では決してうまくいきません。

 新規の場合、顧客はそれぞれに違う性格の市場で求めるものも微妙に違う。この「微妙な違い」というのは非常に重要です。違いに気が付いて、きちんと顧客の業界の言葉でわかってもらえるように、伝えることが大事。医療なら医療、車載なら車載、という形で求められることは絶対に異なります。なので、新規顧客が「これをやりたい」とか「こういうのがほしい」と言うときにやはりできるだけ顧客の気持ちに寄り添って提案できる資料を作る。顧客エンジニアの気持ちを想像しながらいろいろと展開する。自分からすると、やりすぎだろう、というくらいにサポートする、というのが非常に重要かなと思います。

 ただ、こうした相手のことや組織や会社や装置やいろいろを想像しながらの「手取り・足取り」というのは確立された既存顧客の場合はそこまで必要ありません。既存顧客はよく製品のことを知っているし、こちらも相手の会社や組織や担当者のことをある程度よく知っているはずです。なので、もっと客はより深い製品やサービスの改善を求めてきますし、改善改善改善の先に新しい製品を提案してほしいという話をしてきます。なので、そこにはスピーディに対応することが重要になってきますし、提案方法のスキルセットもまた変わってくるでしょう。こうしたノウハウはきちんと見える化して誰でもある一定のレベルでは再現可能にするべきでしょう。

 

イノベーションとは何か

 イノベーションはそれこそ、語り尽くされているテーマだと私は理解しているので、記事化するくらいなら本やほかの記事でも読んだほうが良いと私は思うのですが、イノベーションを起こそうと肩ひじ張ってもそんなものは起きようが無いだろうなあ、と思います。なぜなら、破壊的イノベーションを起こそうと思って起こした人はやはりいないと思うからです。結果として、後から振り返ればそれがイノベーションだったのだということになる。

 Uberが最初出てきたときに、白タクなんて、と日本で馬鹿にされていたりもしましたし、いまだに日本では白タク規制があり普及しておらず、大して知名度もありませんが、世界ではUberないしはそれに準ずるサービスを利用する人はどんどん増えています。世界の人々の移動手段を大きく変えたわけで、Taxiをつかまえる手間をなくした素晴らしいイノベーションですが、これもまた作り始めたときにはここまでの破壊的イノベーションになるとは思ってはいなかったのではないかなあと。

 スマホタブレットを作ったAppleあたりは確かにJobsが破壊的イノベーションを「狙って作った」ようなところがあるので、そこがすごいのだとは思います。

 ただ、UberAppleFacebookGoogleもそうですが、こうした破壊的イノベーションを生み出す素地がシリコンバレーにあるのだとすれば、これは非常に面白いなあ、とは思うのです。そして、そのシリコンバレーにせっかくいるのに、破壊的イノベーションに携わることがあまりないというのは寂しいなあ、とも思う次第です。漸進的イノベーションにはいくらでもかかわってはいるのですが。