【本を読んだ個人の感想】ソニー再生 変革を成し遂げた異端のリーダーシップ

「正しい時に正しい場所にいた人」

「無私無欲が泥縄のソニーを救った」

 

色んな意味で面白い本だった。

 

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ソニー本というジャンル

ソニー本は色々と読んできたが、ソニー元CEOの平井さんの本は初めて刊行された。

平井さんの前の社長であるハワード・ストリンガーは日本語で本を書いてないので、そういう意味では久しぶりのソニー社長経験者の本ということになる。

本書の中でも少し取り上げられてるが、出井さんの「迷いと決断」が過去に新書で過去に出ており、それ以来ということになる。

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 出井さんの著書ではタイトル通り、本人が当時のソニーの舵取りについて悔やむところがいくつかあって、読後感が爽やかというわけではなかった。

(奇しくも出井さんが著書の後半で悔やんでいた在任中に導入できなかった「ホールディングス制」は10数年の時を経て、つい先日、2021年4月からソニーグループ株式会社としてホールディングス制としての会社が始まっている)

 しかし、平井さんのこの本は読後感爽やかで、まさにまだまだこれから「ネアカ」な平井さんがご自身の日本における教育の問題意識で新たな活動をされていく、ということを示唆している。

 

 いわゆるソニー本」は一つのジャンルと言ってもよく、ソニー経営者以外にも日経であるとか、IT系ライターやはたまた週刊誌の記者による本もあったり、ソニー出身のCEO以外の人が語るものなど枚挙にいとまがない。それほどにソニーという会社は注目されてきたし、良いときも悪い時もクローズアップされがちな日本を代表する企業と言って良いだろう。

 

私はソニー本は結構好きなのだ。

 

 ソニーCEO本の金字塔と言えば、勿論、故・盛田昭夫氏の「Made in Japan」だろう。本人の言による、凄まじいまでの坂の上の雲的な起業経験が語られ、戦後の日本に差した一筋の光明のようなSONYの四文字がいかに世界を席巻していくか、若い技術者たちが活躍し、さまざまな難題をクリアしていく様が生き生きと描かれている。個人的にも好きな本であり、何度でも読み返したい本と言える。

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 それ以降、井深氏や大賀さんの「私の履歴書」の単行本化などがあった。

また、様々な外部の記者が書いた本もある。ソニー対松下」とか。

ストリンガー時代を描いた内容では、日経が刊行したソニーは甦るか」という本もあった。 

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ある意味で強烈だったのは、立石氏による「さよなら!僕らのソニーだろうか。暗い長い道をひたすら歩いていたソニーの行く末を案じた内容であったが、この本を前後してストリンガーはいなくなり、登板したのが平井さんだった。

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 遡ると、昔のソニー本だと、なかなか平井さんは出てこない。

四銃士」とストリンガーが平井さんを持ち上げるまでは、まさにそこまで社長レースを走る人として注目されていた人ではなかったのだろう。

(この本書でも平井さん本人は四銃士というが、自分は人数合わせだった」と語るくらいなので本命はやはり吉岡氏と思っていたのだろう。ちなみに吉岡氏は2013年に退任し、コカ・コーラボトラーズの社外取締役になっている。)

 

 それこそ、PSビジネスの成功を追いかけた麻倉氏の名著ソニーの革命児たち」でも後半でPSのアメリカ市場攻略は取り上げられるものの、SCEA改革の立役者は丸山氏ということになっており、その後の市場拡大においても久多良木氏が活躍していると描かれている。

 本書で描かれている平井氏の献身的な貢献には触れられていない。時間の都合上、割愛された可能性はあるが。(当時、平井さんが35歳だったという事実もなかなか痺れる話ではある) こうした話はやはり本人の著書で読むのが1番臨場感があって面白い。

 

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 昔、「ソニー社長は久多良木さんがなればよかったのに」、と一時期、私は思っていたし、もうそうなったら、エレクトロニクス分野でとても技術的にぶっ飛んだことにトライできる刺激的な会社になっていたかも、とも思うのだが、結果としては久多良木氏は副社長までしか上がらず、PS3ビジネスというよりは野心的なCellの結果的な失策(コストの下がらない半導体)もあり、出井氏とともにソニーの表舞台からは去ってしまった。(その後も様々なフィールドで久多良木氏は活躍している。もう久夛良木さんは70歳!)

 しかし、平井さんや吉田さんの舵取りするソニーを見ていると、もし、久多良木氏がソニーのトップになっていたら、面白かったかもしれないが、ソニーという大会社が今の形で残っていたかは相当怪しいとも思う。(言い方悪いが、ソニーをつぶしていた可能性もある?)

 ストリンガー時代というのはまさに、笛吹けど踊らず、な状態が続く。

ストリンガー自身が目障りな人を次々と社長レースから外していった。(井原氏や中鉢氏)

 一方で、make. believeもソニーユナイテッドもついぞ実現せず、掛け声倒れに終わった。ソニーという会社も日本という国も長い間の低迷を経験していた時代とも言える。 

 

ソニー再生」はどんな本か

 本書は根本的な改革、治療に取りかかれないままに市場での存在感を失い続けたソニーが平井さんの元でどうやって、変わっていったのか?ということをつぶさに追いかける本…と言いたいところだが、実際にはそうでもない。

 

そうした細かな施策を追いかける内容は、SONY 平井改革の1500日」という別の日経による本に日時含め事細かに記載がある。

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ソニー再生」はどっちかというと、ターンアラウンドに臨んだ平井さんの当時の心情であるとか、考えていたことを追いかける内容になっている。

 

しかし、これはこれで貴重だ。

 

 あと、個人的にジーンとしてしまったのはNY時代に心細い子どもが出会った同じ日本人の友達から何十年も経ってから空港のラウンジで手紙をもらう展開だろう。大企業の社長にでもならなければ、なかなかこんなことは無いだろう。こうした話を随所に織り込んでくるあたりが結構平井さんという人の気さくな為人を表しているような気がする。

 また、素直に幼少期から高校に入るまでの海外生活が辛かったことを吐露してるあたりも、人からは羨ましがられることが多かったろうが、なかなかに興味深い。また、高校、大学生以降の「はっちゃけ方」も興味深い。「高校デビュー」系の方だったのか、ということがうかがえる。

 

平井さんのソニーでの功績は何か

平井さんの組織のターンアラウンド経験は、SCEA, SCE, そして、SONYということで、それぞれの状況が描かれるが、やはり泥臭い悪戦苦闘が描かれるのは海外子会社であるSCEA。

大賀さんのお気に入りだったマイケル・シェルホフ放逐後の改革のあれこれが描かれる。

ソニーピクチャーズとコロンビアの話は下記記事に詳しい。

 

rincyu.com

 

マイケル・シェルホフはセガとの提携を押したりもした、という話がソニーの革命児たちにも出てくるが、下記記事にも詳しい。

www.4gamer.net

 

 平井さんは「自分はセラピストになったのかと思ったほどいろんな人の話を毎日聴いた」と本書にて述懐しているが、アメリカの現地法人のコントロールというのはどんな時代にも簡単ではないというのがよーくわかる内容だ。

そんな苦闘、苦悩が描かれるSCEA時代というのが1番、現場感がある。 

 

 私も今はアメリカ子会社で働いているので、少しはわかるが、アメリカのワーカーはなかなか一筋縄にはいかない。

  • アメリカには日本企業で言う退職金の仕組みが基本無いからこそ、辞めたい時に辞める。
  • 働かないわけではないが、「日本人が思うような勤勉な社員」というのはそんなにいない。
  • 合理的なアプローチを好み、家庭を大切にして残業はしない。
  • 日本人が好む曖昧な仕事範囲だとか、丸投げは一切通用しないし、job discriptionに書いてないことは一切やらない。
  • 日本では許されるかもしれない下手なことを言えば、会社とワーカーとの訴訟になるし、意外とみんなプライドは高い。

 

ネットで度々ネタにされたリッジ平井に本人が触れてるのも好感が持てる。

 

www.youtube.com

 その後の平井さんはまさに「正しい時に正しい場所にいた」という流れでとんとん拍子に抜擢されていく。本人が望んで向かって行ったというわけではなく、SCEの社長打診時は最初は拒んでいたりもする。

 都度、周りから望まれて、結果的にCEOの座に就くのが印象的だ。ソニーでは内部闘争やあれこれと血生臭い話も多かったりするのだが、そうした権力欲とはいわば、無縁な方、ということになる。(当たり前だが、うがった見方として、影での根回しがあったとか、それとも、ストリンガーとの仲がそうしたのかは本書では語られない)

 

 出井氏の時と違って、その裏側に、スキャンダルがあったわけでもない。(ソニーCEOは本来は出井氏になるはずではなかった、という話はよく言われる話)

 SCEのトップになり、更に管掌範囲がネットワーク機器などにも広がり、そして、ソニーのトップになる。

 

平井さんの英語

 もはや、時代が時代なので、動画でも数多く、残っているが、海外生活も長かった平井さん、英語はアメリカ人とケンカできるレベルだ。インタビューなどではネイティブレベルの英語だし、CESのキーノートスピーチでもその素晴らしい英語が聴ける。「この日本人社長、海外で英語頑張ってるなー」とかそんなレベルでは全くない。

 

www.youtube.com

 

 同じく、その後継者である吉田CEOもCESで奮闘しているが、英語に関しての差は誰もがわかるだろう。いや、平井さんがうますぎるだけで、吉田さんは相当頑張ってる。でも、平井さんの後だと日本人は誰がやっても勝てる気はしない。ストリンガーはアメリカのマスコミに対して普通にやっていたことなのだろうが、それを平井さん以外にうまくこなせたか、というとそれは難しかったのではないだろうか。

 

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 平井さんの場合は自然に話しており、別に「練習してるから上手い」とかではないのはインタビュー動画でわかる。現地アメリカの会社の社長レベルの受け答えである。bloombergやCNBCのインタビュー取材で普通にニュースに出られるCEOって、日本にどれくらいいるんだろうか?記者の英語は半端なく、はやいわけで。

youtu.be

 

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本書では社長就任前後の東日本大地震PSN問題にも触れており、当時の問題解決における情報開示の速度などにも触れている。

 

ソニーOBと戦わない平井さん ノスタルジーでは飯は食えない。

 

また、平井さん達のソニーOBの取り扱いも痛快だ。結果を出した今だからこそ言える内容でもある。

 

(以下抜粋)

パソコンで一時代を築いたVAIO(バイオ)の売却を発表した2014年のことだった。ソニーの初代最高財務責任者CFO)であり、井深大氏・盛田昭夫氏の創業期から同社を支えてきた伊庭保氏から複数回にわたって提言書が届くようになった。平井氏に直接面会せよとの要求も届いたが、平井氏はあえて無視していたという。

「書状には少し目を通すこともありました。でも、書かれていることは一言で言えば「昔は良かった」とか「エレキを軽視する経営はけしからん」といった内容でした。私を含む経営陣への退任要求を含むものもありました。」

「いまさらそんなことを言われてもノスタルジーでしかない。いつまでも「ウォークマンを生み出したソニーであれ」では通用しないんです。なんと言われても結構だが、良い伝統は残しつつ、次の時代に向かうために変えなければならないところは変える、というのが私のスタンスでした。」

(以上抜粋)

 

 

www.sankeibiz.jp

 

 上記の記事でも最近になってもマスコミで伊庭氏(85歳!)は提言を繰り返してる。

上記の記事への私見になるが、当時、金食い虫のディスプレイや電池やPCを温存しておけるわけはなく、売却は正解だったと思う。

 こればかりは後にならないとわからないが、結果的にソニーモバイルディスプレイが取り組んでいたLTPS液晶は技術が陳腐化したし、一方、ソニーがJDIへ売却しなかった有機ELはまだ陳腐化していないし、ソニーは自社で作れるラインを保持してはいるが、拡大するにはやはり巨額の投資が必要で会社を傾ける覚悟で取り組む領域になっており、厳しいことを言えば、南京政府からの無限の投資資金が得られるBOENECの技術が流れ込んだ天馬との競争に耐えられないだろう。ソニーはエンジニアの給与も高く、国内に製造拠点があれば、ワーカーの固定費もひたすらかかる。液晶パネル工程なんてクリーンルーム維持してるだけでも金がかかる。有機ELの展開領域を限定しているのはマーケットや競合を見れば、「正しい経営判断」と言える。

 電池も三星SDIやLG化学、BYDとの文字通り「大規模投資合戦」に打ち勝てなければ勝てなかった分野である。

 PCも既に市場は陳腐化して、SCMでDellやHP、レノボと対抗するのは至難の業だったろう。製品の企画だけで勝たなくてはならない市場であり、ソニー唯一の技術が光るような市場では無くなっていたと思う。市場で唯一無二のポジションを築けなければ生き馬の目を抜くデバイスビジネスやセットビジネスでは生き残れないのだ。「ちょっと面白い、特異な独自の技術」くらいでは全く追いつかない。そこのところの全体市場観のズレ、技術トレンドへの理解の薄さ、無理解が伊庭氏の提言には垣間見える。

 だからこそ、何度も繰り返しいろんなOBが「技術のわかるCEO」と言うのだろうが、出井さんがCEOになるのを止められなかった時点で、伊庭さんはそれ以上口を開かない方がよかったのでは?とは思う。アナリストの意見や社内の現場の声にもよく耳を傾けると評判の吉田さんがOBのこうした意見を黙殺したのも頷ける。たぶん、何をやっても、ソニーOBは昔は良かった、って言うんですよ、たぶん。だって、本当に昔は良かったんだもん。

 

ソニーの社長はエンジニアであるべきか?

 出井さんの就任以降、常に言われてきた話ではある。エンジニアであれば、良いことも沢山あるが、エンジニアでなくとも、ソニーの舵取りやターンアラウンド、成長路線を描くことは可能だということは平井さんや吉田さんが今まさに実績として証明しているし、経営者としての彼らの奮闘をもっとOBは応援してあげたらとは思う。

 ソニーの現状を憂うにしても、自身が在任中になし得なかったことを憂いているに等しく、まさにブーメランなわけで、OBはまさに「自責の念」で経営や施策を捉えて欲しいものだ。

 自分の時に出来なかったことを後進に期待するのはわかるが、上手くいってる時ですらあれこれ言うのは本当にやめた方がいい。晩節を汚すことになると思う。

 

平井さんの最大の功績は?

 吉田さんをCFOに招聘…からの流れなどを読むと、まさに臥竜を得たに等しい展開となる。

 過去最高益/過去最高値の株価を更新し続け、半導体、ゲームに映画にヒット作品を連発するソニーの今はおそらく、吉田さんがいなければあり得なかったと思う。風聞でしか知らないが、吉田氏の経営に対するセンスであるとか把握力、投資に対するメリハリは確かな目利き力がある。

 ソニーは現場力は高いが、それをうまく経営側が活かし切っていなかったわけだが、吉田氏は見事に現場力を活かすマネジメント、経営を実現できたということでもある。

 しかし、その吉田氏をソネットから引っ張り出し、ソニーを成功に導いた立役者はやはり平井さんなのだろう。

平井さんは「正しい時に正しい場所にいた人」だと、私は思う。

また、更に「正しい人を正しい時に正しい場所に連れて来られる人」でもあったのだなと思う。

 前者には類稀なる努力や無私が求められるし、後者もまた、「無私の精神」が必要なのではないか。

 「自分より優秀な人に来てもらおう」ということは権力欲のある人はしない。

平井さんの経営者としての素晴らしさはそういうところに現れているのかもしれない。変な話、良くも悪くもエゴの無い器なんだなあとも感じた。周りがダメだと輝かない。(事実、就任直後、平井氏が発表する羽目になった戦略は右肩上がりを目指す泥沼戦争を仕掛けるようなスマホ5000万台構想だったり、TVも同様の拡大戦略で4000万台構想であった。これは吉田さんではない方が立てた戦略だと思われる)

  

ソニー半導体の奇跡

 このあたり、つい先日、刊行されていたソニー本であるソニー半導体の奇跡」などとは本当に趣が異なる。「ソニー半導体の奇跡」はまさに平井体制が始まる頃までソニーに在籍していた企画戦略系の斎藤氏の著書であり主にソニーCMOSセンサー事業について描かれている。

str.toyokeizai.net

 このあたり、半導体に関しては殆ど、平井さんは自身の著書で触れていないので、補完できる部分はある。ただ、「ソニー半導体の奇跡」を読んでいるとまさに、言い方悪いが、よくあるソニーOBの懐古本であり、自嘲気味に様々なことが語られる。

 様々なお世話になったはずの相手に対する人物評が殆ど「上から目線」で、読んでいる自分は社外の人間なのに、あまり良い気分はしない本だ。周りの方々はどんな気持ちでこの本を読まれたのか、気になるところだ。

 斎藤氏は平井さんについても食事をするシーンで出てくるが、「なるほど、しっかりしている人だ」という風に評したり、井深大とは真逆だと評したりする。(いずれにしても、あまり関わりが無く、しかし、良い感情は抱いている様子が無い)

 CSOになってからの斎藤氏自身について殆ど触れてないのがまたなんとも言えない読後感をもたらす。(斎藤氏はCSO就任後、一年足らずで退任。穿った見方だが、現実的ではない右肩上がりの戦略を立てたのはこの方なのでは?)

 

ソニーの闇とは

過去より、ソニーは優秀な人材を惹きつけてきたが、逆に長年の歴史の経過によって、ソニーという巨大組織は伏魔殿と呼ばれ、魑魅魍魎が跋扈していたということなのだろう。

リストラによって、「切り捨てソニーなる物騒なタイトルの追い出し部屋を扱った本も出たくらいだ。負の側面というのはどうしてもあるのだろう。

toyokeizai.net

たまたま見つけたサイトだが、ギョッとするような内容のものもあった。たとえばこれ。

読んでいくのも辛い内容である。

ソニーテクノクリエイト_リストラ」で検索すると検索一位はこの記事だ。

ちょっと生々しくて怖い。

 

https://shiunmaru.at.webry.info/201401/article_48.html

 

 この記事へのコメントは避けたいところだが、それにしても、恐ろしいのは大手企業となったソニーには経営の中枢とも言える経理にどんな人を雇ってもその後の1人1人の人生を背負わなくてはならない、それが経営者だ、というところだろうか。

日本企業において、事業整理、リストラや早期退職勧奨を進め、会社をリフレッシュしたり活性化させることがいかに大変か、ということが思われる話でもある。そりゃあ、あの手この手で事業の切り出しをして人員整理したくもなるだろう。(リストラ部屋よりも、事業整理、売却の方が雇用は守られるため、実際、批判は出づらい)

本書の厚木の夏祭りのくだりで、切り出されることが決まっていたソニーエナジーの人が平井さんに記念写真をお願いするシーンは平井さんの葛藤を描く本書の中でも「読むべきシーン」だが、エナジーの人は電子部品世界シェアトップの村田製作所に行けるからむしろ、それは恵まれていたとも私は思う。平井さんは言葉を失ったとあるが、もっと大変な目に遭った人たちは実際にいただろう。勿論、厚木から京都などへ持ち家もあるのに引っ越ししなくてはならないとか語られない事情もあったかもしれないが。

VAIOとかJDIと統合されたソニーモバイルディスプレイの人たちの方がよほど苦難の道のりだったのではないか。そうした人たちはたまたま、平井さんと面と向かって話す機会が無かったのだろう。もしかすれば、面と向かって罵詈雑言を言うような人たちだっていたかもしれない。

 

新規事業立ち上げを加速させる仕組みを立ち上げ

ソニースタートアップアクセラレーションプログラム、通称SSAPの立ち上げにあたり、ソニーの若手のふつふつと燃えたぎる情熱、マグマに平井さんは注目したとあるが、そういう意味ではバブル期入社組やらの素行や業務への姿勢がおしなべていまいちだった、ということの裏返しでもあるのだろう。ソニーはこれからも新規事業立ち上げのために、様々な仕掛けや工夫をしていくのだろうが、プレステのような「奇跡」を生み出す素地はなかなか手に入らないだろう。巨大産業への進出は骨が折れる。

久多良木さんという鬼才を丸山さんという全く別の分野のプロがプロデュースした、というのがPSビジネスの凄みであるというのは様々なところで指摘もされてきたところ。

丸山さんが何気に傍で平井さんを抜擢してどんどん成長していっていた、というのはまたあまり語られて来なかったことかもしれない…が、詳しく丸山さんが当時の経緯を語ってる記事が下記にある。

 

business.nikkei.com

 

 

business.nikkei.com

business.nikkei.com

 

これらの記事では、AIBOの路線が否定されたことに丸山さんが本当に憤っているが、この記事の後、aiboが新しく復活してるのはなかなかに興味深いとも思う。

 

ソニー自身、新規事業を立ち上げる、とは言ってもなかなか苦戦してるようには思うが、それでもいろんな分野に色んなアプローチで仕掛けているソニーはやっぱり、企業として再び輝いてるなあと私は思う。

 

ソニーが再び輝くための素地を作り上げた平井さんの無私無欲、利他的、それでいて危機に強いターンアラウンドマネージャーとしてのキャラクターが存分に描かれたこの本、とてもお勧めできる一冊になっていると思う。