■スーツで思い出した吸音材の話。

ある自動車部品関係のフェルト屋さんの話。接着剤で固めたフェルトで自動車部品を作るのだけど、フェルトの原料はいわゆる廃棄された「くず繊維」だそうで、そういったくず繊維は廃棄物が多数廃棄されるような瀬戸内海の島などに買い付けに行くのだそうで。

4t車いっぱいにジーンズやスーツが入っていて、それらは廃棄される予定のもの。フェルトを作るのには原料は何でも構わないのでそれらを二束三文で買い叩く。買い付けに行ったら相手の廃棄物屋はスーツを買い付けの人に好きなだけくれるらしい。廃棄物屋はいつも新品のスーツを着ていて、汗をかいたらそのスーツはごみ箱に捨ててまた新しいスーツを着るのだそう。(それもすごいですね)
新品同様のスーツはその大半は誰かに着られて天寿をまっとうすることなく、廃棄されてカッターでばらばらにされて接着剤が混ぜられてフェルトになって、自動車の中でひっそりと部品として使われている。廃棄されるスーツは定量的に廃棄されるから原料が途切れて困ることはないだろう。

スーツを買うのが嫌になるような話だけど、こういう話は別に不思議なことではない。身の回りでいくらでも行われていること。ペットボトルを使い捨て、レジ袋を使い捨て、ティッシュを使い捨て、紙おむつを使い捨て。使い捨ての市場は私のような業種の人間には魅力的な立派な「市場」なのだけど、多分、世の中の趨勢はそうは思っていないでしょう。
スーツを作った会社や縫製をしている海外の人たちやデザインを考えた人はまさか最後にフェルトになるだなんで最初は思わなかっただろうけど、その使い方を考えた会社を責めることは出来ないでしょう。スーツを作った会社が毎年山のように廃棄しているのは間違いないわけですから。ビジネスや発明や特許の中には先端分野以外にもこういう、マッチングがあるのですね。考えた人を責めるだなんてとんでもない話で、需要があるから供給があり、それでご飯を食べている人がいます。自由競争の世界ではルールを守っていれば、罰せられることはあってはならないはずですから。