モノを売るということ。(材料編)

そういえば、最近お会いしたある方に「有形のモノを売るってどんな感覚ですか?」と聞かれた。

その人はこれまで、無形のサービスを売ったり企画してきたそうで、有形のモノを売る事がどういうことかピンとこなかったので、興味があると仰る。

意外と当たり前のようでいて、人にとっては当たり前ではない自分の人生なので、誰かにそうやって聞かれたらなんとかきちんとお返事したいとおもって言葉を尽くすのだけど、どれくらいうまく伝えられてるのかはよくわからない。

無形のサービスとの対比で、有形のモノを売るというのがどういうことかを話した時はこんな話をした。

有形のモノと言ってもBtoBとBtoCのモノがあって、私が売ってるモノはBtoBのモノです。

Business to Businessと
Business to Consumer

BtoCのモノというと、クルマや家や家電製品、洋服などがわかりやすいですよね。
BtoBというのは例えばそういう最終消費者に渡る完成品の部品や材料だったりを扱ってるビジネスだったりします。
そのため、顧客は最終消費者(Consumer)ではなく、企業になります。企業相手の商売というのはお互いに企業の看板を背負って商売することになるので、それほど、偏屈なお客さんに会うことがないのが、私にとっては最大の利点です。(中には色んな人がいますが、非常識な人にはなかなか遭遇しません)
私は子供の頃から胃が弱く少し神経質なところがありました。神経性胃潰瘍になったりして、かなり辛い時期もあって自分がもし最終消費者による理不尽な不条理に直面し続けたら耐えられる自信が無かったので、BtoB企業でしか働くつもりはありませんでしたし、これからもそうでしょう。BtoCのお仕事してる人はいつも凄いなあ、と感心するばかりです。最終消費者はみんな、わがままじゃないですか。増してや、日本の最終消費者は世界でも類を見ないほどにあれこれと志向が多様化していて売り手にやたら厳しい。そんな人たちを相手にして自分がうまく立ち回れる気がしません。きっとその最前線で頑張れる人はどんなところでもやっていけるんだろうなあ、と常々思ってます。
それに比べればBtoBは気楽と言えば気楽です。会社にもよるのだとは思いますけど。(プリンタなどの機械系装置系の営業だと、一回一回新規顧客回りがあったりするので、あれはあれで大変ですが…あれは限りなくBtoCに近いです。企業向けの備品の営業とか。飛び込みとかもかなりあるし。)私は電機製品の中に使われるような材料や部品を扱ってるので、そういう視点でお話ししたいと思います。

有形のモノを売ると言うのは、無形のサービスを売ることに比べるとあらかじめ形の定まったモノを売るわけですから、売り手のアレンジと言うのは確かにあまり効きません。無形のサービスであれば、色んな形で自分なりの企画やアレンジで色を付け加える事ができるのに比べれば、販売する対象に対しての自由度は低いかもしれませんね。

では、有形のモノを売る時のやりがいであるとか、自分なりのアレンジってどうやって行うのかって話ですが、実は案外と色んな形で差別化は出来ます。それは、顧客対応一つとってもそうで、少しお客さんの望んでるアウトプットを上回ったり、どんな時でも必ず対応したり、いかなる形であれ、その人なりの個性であるとか特徴って出せるものなのです。そして、そういった、「その人の営業スタイル」はそのまま、顧客からの商品選定基準に実は入ってきたりします。

BtoCの話になりますが、ヤナセの営業マンにベンツを年間100台も売る営業マンがいる、という話があります。そんなに潜在顧客がいるのか、とも感心しますが、ベンツなどという毎年は買い換えないであろうクルマをコンスタントに毎年100台売り続けるには、殆ど休まず働いても三日に一台、くらいは売り続けないと計算が合いません。当然そんなスーパー営業マンばかりではないので、年間30台くらいしか売らない営業マンが普通は大半でしょう。では、この営業マンから買えば安く買えるのかというと決してそういう話ではありません。値引率なんて、一介の営業マンで出来る幅なんてたかが知れてます。あと、誰から買ったってベンツはベンツです。別にその人から買わなくたって構わないわけです。でも、皆さん、その営業マンから買うわけです。何故でしょう?

私の尊敬するあるお方がよく、飲み会で言う殺し文句に「結局は「人」ですからね」という言葉があります。当然、製品の技術力であるとか、特徴、コスト競争力、そういったもので負けていては土俵には上がれない訳ですが、その点で少なくとも同等もしくは差別化することがで出来れば、あとは人間力人間性、顧客との関係性で商売が決まったりします。

なにを当たり前のことを、と思われるかもしれませんがモノづくりと言うのは何も技術者や企業の技術力に限らず色んな要素で構成されていて、色んな人が関わることで最終製品が皆さんのお手元に届けられてるんですね。


同じようなモノを売る会社がたくさんあると、価格競争に陥らないんですか?とも聞かれました。
例えば、一時的に値引きして、ライバル会社から案件を奪うと結局、また値下げされて奪い返されます。値段で取れる案件というのは値段で奪い返される案件でもあるのです。ただ、実は際限ない価格競争に陥れば、売り手はおろか、買い手ですら得をしません。BtoBビジネスにおける買い手である自動車メーカーや電機メーカーは際限ない価格競争を材料部品メーカーにさせることが最善の答えでないことをある時に学びました。結局、売り手たちが、価格競争に疲弊して倒産してしまったり、仕事を請けてくれなくなったのです。これでは、製品の革新にも価格低減もうまくいきません。では買い手たちはどう考えたか。

VAであったり、VEという手法を売り手たちに問いかけ始めました。つまり、値段は下げて欲しいが、そのための合理化の方法があるのであれば、それの実現のために一緒になって考えようという話です。

(出展:OK wave)
VA:Value Analysisの頭文字(価値分析)
VE:Value Engineeringの頭文字(価値工学)

VAは、おおざっぱに言うと、既存の製品に対して改善を行う手法です。
製品やその部品に対して、必要とされる機能や品質を考えて現状を分析し、コスト低下につながる代替案を提案する。
この部品は何のために使うのか →他に代替えになる物はないか →あるいは現状の品質がほんとに必要かなど。

VEは、開発設計段階から行う手法です。
設計を行う場合に、機能や品質を満足するするに必要なレベルを考慮する。
(適正な材料の選択、適正公差、最適工法の選択、仕上げ方法の見直しなど)
不必要に過剰品質にならない、設計が複雑では製造段階での努力には限界がある、それらを含めて設計段階への提案。

こういった手法を取り入れることで単純なコストダウンではなく、新しい技術を取り入れながらコストも同時に下げていくということが考えられるようになっています。

部品や材料のビジネスは一度お客さんの製品設計の図面に載ってしまえば、しばらくの間安定的に製品を買っていただけます。(その間、不良品が出たりすればその対応もしなくてはいけませんが、基本的には仕様書で定められた性能の製品が安定的に納められていれば、注文書が来て受注して出荷されるプロセスの中にあまり営業マンは介在しません。あ、これは会社によります。介在する場合もある。)
なので、図面に載せるてもらうまでのプロセスと買っていただくまでのプロセス、そして、売上が上がり始める、即ち結果が出るまでには一定のタイムラグがあります。

そうなると、BtoCと違って、売上が上がった時のやり甲斐とか考えると中々難しい話にはなってきます。
有形のモノを売る喜びというのは、何も一つの製品が売れた時に大騒ぎしてパーティしたりするわけではありませんし、うちの場合、誰から褒められることも特にありません。淡々とやり続ける、取り組み続けることで、淡々と仕事を獲得していく。そこはやっぱり企業の大きな仕組みの中の歯車に思える時もあるかもしれません。でも、ある時ふと、kikiさんの対応はイイですね、とかお客さんや社内の人にポロっと言われたりする。

そういった瞬間が個人的には一番やり甲斐を感じる瞬間かもしれません。

これからも頑張ろうって思える瞬間です。

案外と有形であっても無形であっても、やり甲斐ってその人なりに見出せるものだし、大差ないね、という結論に達しました。