柄にもなくバーバリーの名刺入れを使ってるのだけど。

柄にもなくバーバリーの名刺入れを使ってるのだけど、この名刺入れにはちょっとした思い入れがある。もらい物なんだけど。
社会人になって始めの頃はアルミの無印良品の名刺入れ使ってた。あまり元々持ち物にこだわる性質ではないので、周辺のものにもお金を比較的かけないスタイルだったのだけど。
社会人一年目は内勤として、FAXで送られてくる注文書を端末に打ち込んでその後、納期連絡するというお仕事、いわゆる受注管理であるとか、納期管理であるとか、納期調整といった仕事を任されていた。今考えると、人員が足りないから雇われたってわけじゃないんだろうな、とも思うんだけど。

そんなある日、関東から一人のおじさん営業マンが転勤になってきた。Sさんとしておこう。Sさんはずーっと営業をやってきたのだけど、何かに失敗したのか、担当する仕事がなくなったのかどうかわからないんだけど、うちの支店に配属されて内勤業務を担当するという。浅黒い小柄なおじさん。いや、見た感じおじいさんと呼んでもおかしくない老け方だったとも思う。
そんなおじさんが20年来触ってない端末で受注管理するというのだ、自分の父親とほぼ同い年のSさんに一から端末の操作方法を教えるのは私だと言う。私はまだ入社間もなくて、やっと端末の操作方法をマスターしつつあったのだけど、社会人になって初めて教える相手が自分の父親くらいの歳の人。何とも複雑な気分になりつつも社会人になるとこういうこともあるものか、と思いつつSさんに仕事を教え始めた。
結局この手の仕事は誰がやっても慣れるとかかる時間はそれほど変わらないのだけど、根っからの営業マンのような人の中にはこの手の細かいミスの許されないお仕事が苦手な人は結構いるものと思う。Sさんも最初は手こずっていて、何かと私に聴きに来ていた。

数ヶ月経ってSさんも順調に立ち上がりはじめた頃、ふとSさんが思いついたように机の中を整理し始めて、私に名刺入れをくれた。バーバリーの名刺入れで買えばそれなりにはするだろう。しかも、見た感じ、割と古くない。

「これ、kikiさんにやるよ、俺はもう使わないからさ」と。

くれると言うのでいただくことにした。新しいものでも買うのかな、と。

Sさんはそれから会社に来なくなった。体調があまりよくないらしい、という話は課長から聞いていたのだけど、結局教えた仕事は他の人に割り振られることになって、なんだかなあ、と思っていた。

さらに三ヶ月後、Sさんは唐突に亡くなってしまった。

確かに顔色はあんまりよくなかった。内臓系があまりよくないのだろう、という話は聞いていたけども。恐らく健康上の理由から営業から外れたのだろうと思う。

今思うとSさんの柄には合わない名刺入れだったのかもしれない。Sさんは農業資材関係の営業マンだったし、泥臭い仕事が大半を占めていただろうし、スーツじゃなくてジャンパーを着なければいけないことも多かっただろう。だから、くれたのかもしれないけど、Sさんがどういう気持ちでこの名刺入れをくれたのかは今となってはわからない。

その後6年間、この名刺入れは私と一緒に色んな国や地域を旅してくれてる。靴も履き潰れるし、シャツもいずれはくたびれるし、カバンも壊れちゃうけど、名刺入れはなくさない限りはこの名刺入れをずーっと使っていきたいな、と思うのです。どこかで営業の大先輩が見守ってくれてるような気がするしね。