CND(調整根回し段取り)を極めることは日本企業の悪弊か?

 日本企業においてもっとも重要なスキルとも言われる、CND(調整・根回し・段取り)。昔、読んだダークサイドスキルという本にも書いてあった。

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CNDがうまくいけば物事は前に進み、うまくいかなければ、物事は前進しないどころか後退することもある。

大企業であれば必須のスキルだが、別段、大企業だろうが、スタートアップだろうが、おそらく、これらをしなくても良いという意味ではないだろう。スタートアップの場合は、関係する人が極端に少ないので、話が早いだけで、どんな組織でもこうした調整は必要になるだろう。ある程度、ガバナンスを利かせなければならないサイズ感の会社組織ならなおさらだ。(上場企業とかね)

 もちろん、「ある程度の権限の範囲内で自由に進めても良い」という事前承認をとったうえで、担当者やある部署の責任者が自由に動けて決められる会社というのもあると思う。だが、これにしたって、どれくらいの裁量までは使ってもよいのか、ということを事前に調整しているのだから、やっぱりCNDが必要ということになる。

 普段は責任を取らないハンコレースの参加者たちは自分たちは「めくら判」を押しておきながら、いざ何か問題があれば、「報告連絡相談が無かった!」「私は(はんこは推したけど)本人から直接聞いていない!」として、失敗した人を烈火のごとく攻め立てて自分の責任は無いことを証明しようとする。(なので、ハンコレースなんてマジで悪だと私は思うけど)

 

 以前、「社を去ったスーパーセールスマン」という記事でも話題にしたが、優れた外部からの招聘者というのは会社にはびこる旧弊を打ち破ることを期待されて採用されることが多い。

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 その人が持つスキルないしはキャラクター、または経験や人脈・ツテを活用できることを期待されて幹部クラスの中途採用者は会社に参加する。こうした突破力を期待される人材は社内調整・根回しや段取りを比較的軽視する傾向がある。軽視の度合いは色々あるのだが、重要なのは決裁権や影響力のある人を見極められていないと、「背中から撃たれる」ことになる。

大事なことはそうした人が誰であるかをきちんと見極めて、「梯子を外させない」「巻き込んで仲間にしてしまう」ことである。

 そして、そういう自分の「はしごを外しそうな人たち」が気にしそうなことを事前にうまく聞き出して、リスクとなりそうな点を事前に網羅しておくことである。そうやって、周りや上層部の方々の時には耳に痛いかもしれない意見をうまく聞き出すためには円滑に誰とでも仲良くなれるコミュニケーションスキルが必要で、良いブレーンも必要だ。仲良くなっても、言うべきことは言える間がらを作るというのは非常に重要なスキルともいえる。相手が意見を言いづらい環境や心理的安全性の低い雰囲気を作っていてはいけない。むしろ、「この人に意見を言えば、きちんと取り入れてもらえる」という期待感の醸成のほうが重要だ。

 ただ、こういう調整ばかりしているから、日本企業は一足飛びに非連続成長しないし、無駄な仕事ばかりが増える、と言えばまさにその通りではある。日本企業では、上層部でのコンセンサスを得てからの現場の動きは速いが、内部でコンセンサスを形成するためのコミュニケーションコストが非常に高く、会議も多く資料作成の機会も多くそのためのコミュニケーションスキルも求められる。経営企画部だとか社長室みたいな組織がやっていることはこうしたエグゼクティブミーティングの合意形成プロセスのための下準備のための資料作りだったり調べものだったりすることが殆どだろう。何か、プロアクティブに調査して、企業全体を俯瞰した戦略を立案することなんて殆ど無いのではないか。(それは言いすぎか?会社にもよるだろう)日本電産ユニクロソフトバンクなどの会社が目覚ましい成果を上げているのは、上層部の意向がはっきりしていて、コンセンサス・合意形成のためのコストが低いから、というのは間違いないだろう。創業トップがバリバリ仕事している、という点も共通する。

 CNDが不要で、物事をきちんと前進させビジネスをドライブするためのプロセスを事前に作っておけばよいのだけど、そういうプロセスやチェックリストがあることはまれで、どうしてもふわっとしたその場の雰囲気とか、発表内容の中身の煮詰まり方や、事前の議論の深さとかで相談の有無とかで物事の良否が決まる。例えば、「〇〇について内容が不足しているので差し戻す」という具体的なObjectionがあった場合、もう一度再検討してもらうためには多大な労力が必要になるし、差し戻した側も理由が明確であれば、よいが、そうでなければ、再審議をするにも相応の大義名分が必要だろう。

 

今のところ、大半の日系企業では、やはりこうしたスキルがいかに卓越しているか、という点は重要になってしまうのだろう。残念ながら。